【連載:清水草一の自動車ラスト・ロマン】#16 赤いヒモはどこに!?

公開 : 2025.08.15 12:05

自動車はロマンだ! モータージャーナリストであり大乗フェラーリ教開祖の顔を持つ清水草一が『最後の自動車ロマン』をテーマに執筆する、隔週金曜日掲載の連載です。第16回は『赤いヒモはどこに!?』を語ります。

箱根のワインディングを走っておくべき!

『自動車におけるロマンは、故障の可能性である』という定義のもと、総額約300万円で購入した大貴族号こと、5代目マセラティクアトロポルテ

しかし納車以来約1ヵ月、警告灯の誤作動があっただけで、どこも故障していなかった。

総額約300万円で購入した大貴族号こと、5代目マセラティ・クアトロポルテと筆者。
総額約300万円で購入した大貴族号こと、5代目マセラティ・クアトロポルテと筆者。    神村聖

そんな時、編集部のヒライ君から誘いを受けた。

「せっかくなので、箱根で大貴族号を撮影しませんか!」

なるほど。箱根はクルマ好きの聖地。最近私の聖地は首都高になっており、めっきり足が遠のいているが、一度くらいは箱根のワインディングを走っておくべきかもしれない。箱根でフェラーリV8を咽び鳴かせ、トランスアクスルがもたらす珠玉の操縦性を味わわねば、自動車ラスト・ロマンが泣くというものだ。

ただ、懸念もあった。なにしろ今年の夏は猛暑。こんな暑い中、大貴族号で箱根まで往復して大丈夫だろうか。

私は3月のフェラーリ328炎上事件(漏れたオイルに火がついて危うく全焼)以来、そのPTSDで、極度の炎熱恐怖症に陥っていた。そもそも、夏はフェラーリに乗るべきじゃない。フェラーリ・エンジンを積む大貴族号も同様のはずだ。

正直、気は進まなかったが、大貴族号を買ったのは、ロマンを実現するためだ。夏、箱根に行くくらいでビビっていたら、ロマンもへったくれもなかろう。仕方ない、行くか……。

今のところ鉄壁の冷却性能を発揮!

早朝、なるべく涼しいうちに東京を出発し、西へとひた走った。

今回は警告灯の誤作動もなく、機関は順調。エアコンもしっかり効いている。大貴族号の水温計は、まだ一度も90度を上回ったことがない。

3月漏れたオイルに火がついて危うく全焼という経験以来、極度の炎熱恐怖症に……。
3月漏れたオイルに火がついて危うく全焼という経験以来、極度の炎熱恐怖症に……。    清水草一

5代目クアトロポルテは、フェラーリV8をフロントに積んでいる。その豊潤なボディラインは見るからに暑苦しく、いかにも熱の抜けが悪そうだ。

フェラーリV12をフロントに積む456GTや550マラネロは、日本の夏に耐えられないと聞く。エンジン搭載位置よりも、ボンネットに穴が開いてないことが問題なのだろう。

フェラーリのミドシップマシンは、エンジンフードがスリットだらけ。あそこから熱が逃げてくれるが(雨が降ったらエンジンズブ濡れ)、フロントエンジンの場合、ボンネットを穴だらけにするのは難しい。大貴族号も、ボンネットのヌケは皆無である。

これで大丈夫なのか? こんな暑さに弱そうなクルマが、今のところ鉄壁の冷却性能を発揮しているが、正直、不思議で仕方がない。

しかしその日も大貴族号は、ノートラブルで箱根に到着した。心配なのは、「ガソリン持つかな~」くらいだった。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    清水草一

    Souichi Shimizu

    1962年生まれ。慶応義塾大学卒業後、集英社で編集者して活躍した後、フリーランスのモータージャーナリストに。フェラーリの魅力を広めるべく『大乗フェラーリ教開祖』としても活動し、中古フェラーリを10台以上乗り継いでいる。多くの輸入中古車も乗り継ぎ、現在はプジョー508を所有する。
  • 撮影

    神村聖

    Satoshi Kamimura

    1967年生まれ。大阪写真専門学校卒業後、都内のスタジオや個人写真事務所のアシスタントを経て、1994年に独立してフリーランスに。以後、自動車専門誌を中心に活躍中。走るのが大好きで、愛車はトヨタMR2(SW20)/スバル・レヴォーグ2.0GT。趣味はスノーボードと全国のお城を巡る旅をしている。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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