スペインのセアト(Seat) 安価なガソリン車に注力 『イビサ』など大幅改良へ

公開 : 2025.09.11 17:45

フォルクスワーゲン・グループ傘下のセアトは2026年、『イビサ』と『アローナ』の大幅アップデートを実施する予定です。EV需要が踊り場を迎える中、小型・低価格車ブランドとしての競争力を高めます。

小型車に特化した低価格ブランドへ

スペインの自動車メーカーであるセアトが、数年ぶりに新たな動きを見せた。欧州で販売するガソリン車をアップデートし、低価格ブランドとしての競争力を維持する方針だ。

セアトは近年、新型車の投入がなく、親会社フォルクスワーゲン・グループは兄弟ブランドのクプラに注力していることから、将来が危ぶまれていた。

イビサ(右)とアローナ(左)は来年、大幅改良を受けることが確定した。
イビサ(右)とアローナ(左)は来年、大幅改良を受けることが確定した。    セアト

しかし、暫定CEOに就任したマルクス・ハウプト氏によると、Bセグメント相当の小型ハッチバック『イビサ』とクロスオーバー『アローナ』は、来年初頭についに大幅改良を受けることが確定したという。

ハウプト氏は今月開幕したミュンヘン・モーターショーで、「現時点で、セアトはクプラを完璧に補完する存在です。それぞれ異なる市場に参入し、まったく異なる顧客層に対応しています。セアトへの投資は継続しており、来年は新型のイビサとアローナを発売する予定です」と語った。

「明確にしておきたいのは、セアトへの投資が続いているということです。さまざまな規制が存在する中で、多くの市場に対応できる柔軟性を確保することが、現時点では非常に重要だからです。したがって、2つのブランド(セアトとクプラ)は完璧に調和していると言えるでしょう」

ハウプト氏は改良の詳細についてはコメントを控えたが、2024年後半に公開された予告画像からは、デザインがわずかに変更されることが示唆されていた。

消費者にEVを強制することはできない

クプラはもともとセアトの高性能サブブランドだったが、2018年に1つのブランドとして独立。それ以来、セアトの役割や立ち位置は疑問視されてきた。今回明らかになった2車種のエントリーモデルへの大規模な投資は、2030年代に向けて、セアトが小型で手頃な価格のモデルのスペシャリストとしての役割を担っていくことを示唆している。

これに伴い、クプラはPHEVやEVに焦点を当て、さらなる高級化を目指すことができるになる。

セアトの現行ラインナップ
セアトの現行ラインナップ

セアトの元CEOであるウェイン・グリフィス氏は、今年3月に同社を離れる前に、AUTOCARの取材に対して、イビサに搭載されるガソリンエンジンを次期ユーロ7排出ガス規制に対応させる予定だと語っていた。

小型で収益性の低いモデルにとっては大きなコスト負担だが、EVの需要がまだ高まっていない市場で販売を続けるためには重要かつ必要な一歩だ。

セアトのラインナップには、Cセグメントに相当する『レオン』と『アテカ』も名を連ねるが、どちらもクプラから高性能バージョンが販売されていることから、最終的には廃止される可能性がある。

グリフィス氏は、イビサとアローナへの傾注はEVからの撤退を意味するものではなく、「電動化という方向性から逸脱するつもりはありません。できるだけ早くゼロ・エミッションを達成するという目標に疑問を呈することはありません。その道筋については柔軟に対応しなければならず、独断的になってはいけません。消費者にEVを運転するよう強制することはできないのです」と語った。

来年、クプラから2万5000ユーロ(約430万円)未満の小型EV『ラヴァル』が登場する。グリフィス氏はこのモデルについて、「EVの民主化」に貢献するだろうと期待を寄せていた。

「2万5000ユーロ以下の小型の都市型EVが登場すれば、EVは普及していくでしょう。しかし、その間も、わたし達は(内燃機関車とEVの)両方を提供しなければなりません」

「2つのブランド、つまり、EVに明確に焦点を当てたクプラと、内燃機関に焦点を当てたセアトを構築しようとしています。両方の長所を最大限に活かしていると思います」

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    役職:編集者
    自動車業界で10年以上の経験を持つ。欧州COTYの審査員でもある。AUTOCARでは2009年以来、さまざまな役職を歴任。2017年より現職の編集者を務め、印刷版、オンライン版、SNS、動画、ポッドキャストなど、全コンテンツを統括している。業界の経営幹部たちには定期的にインタビューを行い、彼らのストーリーを伝えるとともに、その責任を問うている。これまで運転した中で最高のクルマは、フェラーリ488ピスタ。また、フォルクスワーゲン・ゴルフGTIにも愛着がある。
  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    役職:雑誌副編集長
    英国で毎週発行される印刷版の副編集長。自動車業界およびモータースポーツのジャーナリストとして20年以上の経験を持つ。2024年9月より現職に就き、業界の大物たちへのインタビューを定期的に行う一方、AUTOCARの特集記事や新セクションの指揮を執っている。特にモータースポーツに造詣が深く、クラブラリーからトップレベルの国際イベントまで、ありとあらゆるレースをカバーする。これまで運転した中で最高のクルマは、人生初の愛車でもあるプジョー206 1.4 GL。最近ではポルシェ・タイカンが印象に残った。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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