通常の約半分 ルノーはなぜ2年未満で新型『トゥインゴ』を開発できたのか 中国との競争とコスト削減

公開 : 2025.10.15 17:45

多様性と複雑性

バリエーションを減らせば生産スピードが上がるのは当然だ。世界初の大量生産車と言われるフォード・モデルTでも、選べる塗装パターンは限られていた。しかし、顧客に選択肢を提供しようとした結果、オプションの数は膨れ上がり、全生産工程で複雑が増大する要因となっている。

コンベモレル氏によると、メガーヌEテックにパワートレイン、バッテリー、塗装、その他の仕様オプションを加えると、約220通りのバリエーションが生じるという。「中国メーカーで同じことをすると、平均で15種類程度になります。しかも、15種類を同時に作ることはありません。まず7種類、次に8種類という具合に作るんです。これには特別な理由はなく、単にわたし達とは違うだけです」

品質の向上は生産の高速化につながる。オプションの簡素化も同様だ。
品質の向上は生産の高速化につながる。オプションの簡素化も同様だ。    ルノー

このような仕様の一部はほとんど選ばれることがない。顧客が購入を検討している段階では、多くのオプションを提示しても必ずしも良い結果にはつながらない、とコンベモレル氏は言う。

従来モデルでは20色以上の塗装オプションがあるが、トゥインゴではわずか7色に絞られる。これは計算によるものだ。「製品担当者に『赤の塗装を廃止する』と伝えると、『いや、赤は1000台売れる』と反論されるでしょう。ですが、現実はそう簡単にはいきません」

デジタルシミュレーション

クルマの開発プロセスで最も時間とコストがかかるのはテストだ。乗り心地とハンドリングの調整、運転支援機能の動作確認、衝突試験などである。物理的な試作車でのテストに代わるものはないが、高度なシミュレーションソフトを使えばその必要性を大幅に削減できる。また、数百万通りものシナリオをテストできるようになる。

ルノーはパリ近郊の開発拠点テクノセンターに2260万ポンド(約45億円)を投じ、新たな没入型シミュレーションセンターを設立した。ここでは「デジタルツイン」と呼ばれる、開発中の車両の仮想モデルを用いた膨大な開発作業が可能で、実車を走らせる前にテストと改良を実施できる。デジタル変革・シミュレーション責任者のオリヴィエ・コルマール氏は「開発のあらゆる側面でバーチャルツインを厳密にテストし、シミュレートできます。つまり、実物プロトタイプを製作する際、初回から正確に仕上げられるということです」と語る。

ルノーのテクノセンターで使用されているヘキサポッド。球体の中にビデオスクリーンと運転席が載っている。
ルノーのテクノセンターで使用されているヘキサポッド。球体の中にビデオスクリーンと運転席が載っている。    ルノー

時間短縮効果は計り知れない。ルノーはすでに実物テストモデルの数を53%削減し、これだけで開発期間を約1年短縮できたと試算している。

テクノセンターの目玉設備は『ルノー・オペレーショナル・アドバンスト・ドライビング・シミュレーター(ROADS)』と呼ばれる装置だ。ルノーによれば、メーカー所有のシミュレーターとしては最高峰の性能を誇るという。そのスケールは圧巻だ。巨大なヘキサポッドの上に運転席が据えられ、ヘキサポッド自体もレール上に載っている。高速で移動させることが可能で、3Gの加速度を発生させられる。

この装置は、搭乗者(通常はルノー社内から選抜される)にリアルなフィードバックを提供し、運転支援機能や自動運転機能を正確にテストできるように設計されている。フランス・オーブヴォワにある多数のテストコースも、デジタルで完全再現している。その精度の高さゆえ、客観的な測定値を生成し、デジタルツインの改良に活用できる。そして、最終的には実車の開発に反映する。

ROADSは、レース用シミュレーターとは異なる。「F1シミュレーターはドライバーの訓練用に作られています。ROADSは純粋に車両そのものをテストするために開発されました」とルノーのドライビングシミュレーター担当者フロラン・コロンベ氏は説明する。

ちなみに、ROADS使用時には大きな力が加わるにもかかわらず、これまで搭乗者が気分を悪くしたことはない。コロンベ氏によれば、事前に不安を和らげるためにヘキサポッドがどれくらいの速さで動くかを見せてから搭乗させているそうだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    役職:雑誌副編集長
    英国で毎週発行される印刷版の副編集長。自動車業界およびモータースポーツのジャーナリストとして20年以上の経験を持つ。2024年9月より現職に就き、業界の大物たちへのインタビューを定期的に行う一方、AUTOCARの特集記事や新セクションの指揮を執っている。特にモータースポーツに造詣が深く、クラブラリーからトップレベルの国際イベントまで、ありとあらゆるレースをカバーする。これまで運転した中で最高のクルマは、人生初の愛車でもあるプジョー206 1.4 GL。最近ではポルシェ・タイカンが印象に残った。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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