揺れる『日産自動車』の近未来(後編) 信じたくなるエスピノーサ社長の自動車愛【不定期連載:大谷達也のどこにも書いていない話 #6】

公開 : 2026.06.24 11:50

AIドライブ技術とAIパートナー技術の組み合わせ

従来の自動運転技術は、人間があらかじめルールをプログラムしておく『ルールベース』を採用していたのに対して、ウェイヴ社のソフトウェアはAIモデルを通じて周囲の状況を認識して車両を制御する『エンド・ツー・エンド・モデル』を採用している点に特徴があり、ルールベースと違って開発期間の短縮や製品コストの低減に役立つとされる。

日産は、2027年度に次世代プロパイロットを製品化するとともに、搭載モデルを順次拡大していく計画だ。このAIドライブ技術に、AIパートナー技術を組み合わせることで、日産のAIDVは完成する。

長期ビジョン説明会で発表された、新型『エクストレイル』。
長期ビジョン説明会で発表された、新型『エクストレイル』。    日産自動車

AIパートナー技術について日産は「移動中の行動をサポートし、クルマを暮らしのなかに自然に溶け込ませることでお客さまの体験価値を高めていきます」と説明している。要は、乗員の自然な発話をAIが理解し、その内容に応じて目的地を提案したり、外部とのコミュニケーションをサポートするなどといったもの。

こういった機能自体は目新しくないが、これをAIパートナー技術と呼び、AIドライブ技術とあわせてAIDVと称するあたり、いかにも日産らしいプロモーションのスタイルと言えるだろう。

経営者がいかに自動車を愛しているか

イヴァン・エスピノーサが日産の代表執行役社長兼最高経営責任者に就任したのは、2025年4月のこと。

当初は追浜工場の閉鎖など、コスト削減を目的とした厳しい施策で注目を集めたが、自動車メーカーの経営立て直しはコスト削減だけで終わるものではない。むしろ、そこから先の成長戦略をいかに描いていくかのほうが重要といえる。

日産経営立て直しという、大きな課題を背負うエスピノーサ社長。
日産経営立て直しという、大きな課題を背負うエスピノーサ社長。    日産自動車

私は、自動車メーカーの成長戦略を描けるかどうかは、経営者がいかに自動車を愛しているかと深く関係があると信じている。例えばカルロス・ゴーンは、コスト削減で顕著な功績を挙げ、その後の成長戦略についてもGT-Rの投入などで成功するかに思えたが、彼のリーダーシップで誕生した魅力的な日産車は多くなかった。

決して彼が「自動車を愛していなかった」というつもりはないが、日産を成長させようとする彼の情熱は長続きせず、これが商品展開の面でもいつしか消極策に陥った原因のように捉えている。

一方のエスピノーサは、これまで何度か個人的に話した経験から、ホンモノのクルマ好きだと断言できる。そうした情熱があればこそ、今回の長期ビジョンをまとめることができたのだろう。問題は、彼の情熱がどれだけ『長続き』し、日産を真の成長戦略に導くリーダーシップを発揮できるかどうかに関わっている。

私は将来、「21世記に日産を成長基調に導いたのはエスピノーサだった」と言われることを強く願っている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    大谷達也

    Tatsuya Otani

    1961年生まれ。大学で工学を学んだのち、順調に電機メーカーの研究所に勤務するも、明確に説明できない理由により、某月刊自動車雑誌の編集部員へと転身。そこで20年を過ごした後、またもや明確に説明できない理由により退職し、フリーランスとなる。それから早10数年、いまも路頭に迷わずに済んでいるのは、慈悲深い関係者の皆さまの思し召しであると感謝の毎日を過ごしている。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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