【アウディ・クワトロとランチア・デルタ】ラリーで鍛えた高性能マシン 後編

公開 : 2020.04.26 16:50  更新 : 2020.12.08 11:05

ラリーステージが育んだアウディ・クワトロとランチア・デルタ。天候や路面を選ばずに圧倒的なスピードを楽しめる、新ジャンルの高性能モデルを確立したといえるでしょう。誘引力も価格上昇も止まらない2台を、比較します。

現代基準で考えても充分に速い

text:Chris Chilton(クリス・チルトン)
photo:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
当時の試乗テストでは、WR型のアウディ・クワトロは0-96km/h加速を6.5秒でこなした。RR型より1秒ほど遅いが、現代基準で考えても充分に速い。同時にステアリングも鮮烈なもの。

フロントタイヤの前方に重いエンジンが載っているから扱いにくく、活気に欠けると想像するかもしれない。だが、細身のレザー巻きステアリグホイールを握ると、無駄な心配だとわかる。

アウディ・クワトロ 10V
アウディ・クワトロ 10V

ステアリングは直進時からの切り始めが軽いが、デリケート。グリップ力が緩くなるまで緊張感のあるフィーリングを保つ。

手のひらに伝わるわずかな感触に、信頼感が生まれる。深く切り込んでいっても、適度な重みは感じれれない。

ブレーキは、新車当時の記事ではサーボが強すぎると記してある。しかし今は、もっと効いて欲しいと思える。深く踏み込めば充分に速度を殺せるとはいえ、ペダルの柔らかい感触は、強力なトラクションほど安心感を与えてくれない。

勢い余ってタイトコーナーに突っ込むと、前後50:50のトルク配分と鼻先の重たいエンジンが、ラインの外側にクワトロを引っ張ろうとする。心配するほど顕著ではないから、アクセルを少し戻し、内側に絞ればいい。

WR型のクワトロはウェールズの山岳路を爽快に駆け抜ける。1988年のMB型にはトルセン式のセンターデフが採用され、クワトロのハンドリングを向上させた。

誕生から10年経たないうちに、アウディ製4輪駆動の意味でクワトロという名前が複数のモデルに与えられた。一方でラリーはグループA時代となり、クーペのクワトロは、ランチア・デルタには届かなかった。パワーバランスが完全に変わった。

グループAを席巻したデルタ

1983年までさかのぼれば、ミドシップで4輪駆動のランチア037とクワトロとが、WRCタイトルで渡り合っていた時代もあった。しかし1987年以降は、ランチア・デルタの独壇場となる。

グループAで競われたWRCの初戦、1987年のマニュファクチャラーズ・タイトルを勝ち取ったのは、フェンダーの膨らみが小さいデルタHF。1988年には、8バルブのHFインテグラーレが量産車として登場する。

ランチア・デルタHFインテグラーレ 8V
ランチア・デルタHFインテグラーレ 8V

4輪駆動に2.0Lエンジンを搭載したデルタHFをもとに、8バルブのHFインテグラーレには大きなギャレット製ターボとインタークーラーを搭載。167psから184psへとパワーの向上を果たした。

ホイールサイズは15インチの6Jとなり、フェンダーが広げられ、より戦闘力を高めたハードウエアを包む。センターデフのトルク配分は、56:44の、前輪優先となっている。

1989年になると16Vのインテグラーレが登場。202psを発生する4バルブ・ユニットを搭載するため、ボンネットにはバルジが設けられ、アグレッシブさも追加した。

さらにエボルツィオーネ1と2で、戦闘力を高めていったデルタ。控えめな初期型の8バルブのデルタには、さほど読者も熱くならないかもしれない。

オーナーのブラッドリーは、この赤いデルタHFを全開にしても良いという。ただし、サイドガラスは半分以上開けないで欲しいとのこと。動かないらしい。鍵を受け取り、シリンダーへと差し込んだ。

クワトロと異なり、このデルタは左ハンドルだが、違いはそれだけではない。ドライビングポジションはアップライト気味で、フロントガラスも切り立っている。大きなイノチェンティ・ミニ・デ・トマソのように思えたが、運転してみたら実際に似ていた。

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