ベントレーのオープンホイール・レーサー 親子で仕上げたT1プロトタイプ・シャシー 後編

公開 : 2022.05.29 07:06

ボディ塗装はオリジナルのブルーのまま

Tタイプ・スペシャルがイースティック家へ帰ってきたのは、2017年3月。ベンのジャガーを世話している、オックスフォードの北にあるクラシック・パフォーマンス・エンジニアリング社へ直行した。

「最初にオイルやフルード類をすべて交換。まずサーキットを走れる状態に仕上げました」。と話すのは、レストア作業を請け負った同社のジェームズ・ワディントン氏だ。

ベントレーT1シャシー・スペシャル・レーサー(1976年)
ベントレーT1シャシー・スペシャル・レーサー(1976年)

8月には、ブロワーを外した状態でベントレー・ドライバーズ・クラブイベントに出場。30年ぶりのシルバーストーン・サーキットで、スペシャル・シャシーは予選を2位で通過した。一度トップに出るものの、エンジンがオーバーヒートし4位で完走している。

「12月の寒い雨の日にもテストを行い、元のセットアップを確認しました。それから、すべてのボルトとナットを外してレストアしています」

「サスペンションや安全に関わるすべての部品は、ひび割れがないか検査し、表面を加工し直しています。配線類は引き直し、シャシーは再塗装。ボディは当初仕上げられた、ジャガーのミッドナイト・ブルーのままです」

「アメリカではボディサイドにステッカーが貼られていました。ですが、幸運にも塗装は殆ど傷んでいなかったんです」。ワディントンが振り返る。

当初積まれていたRタイプ用のトランスミッションは、200馬力程度にしか対応できなかった。ベントレーのレストアではアキレス腱の1つといえ、このスペシャル・シャシーの場合も2019年と2022年にダメージを受けているという。

親子2代で完成したレーシングカー

「そこで自社で設計し、ギアとシャフトを作り直しました。シャフトを支持する、金具も追加しています。太いトルクでシャフトがずれて、ギアが駄目になるのを防ぐために」

エンジンはオリジナルのままだったが、ワディントン達はブロックを強化するストラップを設計した。ルーツタイプのスーパーチャージャーもオリジナル。部品の一部は、マシンを最初に仕上げたリンカー社の創業者が保有する、倉庫で発見された。

ベントレーT1シャシー・スペシャル・レーサー(1976年)
ベントレーT1シャシー・スペシャル・レーサー(1976年)

ワディントンが続ける。「スーパーチャージャーを組んだのに合わせて、回転数全域で燃料を正しく供給できるよう、キャブレター部品の開発もしています。リンカー社では、そこまでは実施されていませんでした」

レストアでは、ラック&ピニオン式のステアリングラックも組み込まれた。「1960年代のロールス・ロイスとベントレーは、GM社の協力を受けていたので、それを選んでいます」。とベンが説明する。

「父も1978年シーズンに向けてラック&ピニオン式への変更を考えていましたが、実現しませんでした。オリジナルのボールナット式はジャガーのサーボとともに組まれ、公道での走行には適していたようです」

Tタイプ・スペシャルは、親子2代を通じて見事に完成した。息子のベンは、2021年8月に開かれたベントレー・ドライバーズ・クラブのイベントの1つで優勝を掴んでいる。「最高でしたよ。ベントレー側からの祝福も受けることができました」

協力:クラシック・パフォーマンス・エンジニアリング社、スクランブラー社

記事に関わった人々

  • 執筆

    ポール・ハーディマン

    Paul Hardiman

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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