フェラーリV8をミドシップ スバッロ・スーパーエイト 240馬力の酔わせる融合 後編

公開 : 2023.03.26 07:06

マラネロのV8エンジンをリアに押し込んだ、斬新デザインのハッチバック。スイス生まれのワンオフ・モデルを、英国編集部がご紹介します。

フェラーリらしい気持ちを高ぶらせる脈動

スバッロ・スーパーエイトのドアを開くと、丁寧に施された内装に見とれてしまう。ベルベット・カーペットの上に載る、タン・レザー仕立ての大きなセンターコンソールが、マラネロ由来のコンポーネントを包み込んでいる事実を静かに語る。

エアコンの送風口やスイッチ類と同様に、メーターパネルもフェラーリから移植されている。丸いシフトノブが付いたクラシカルなシフトレバーは、クロームメッキされたオープンゲートから伸びる。

スバッロ・スーパーエイト(1984年/欧州仕様)
スバッロ・スーパーエイト(1984年/欧州仕様)

予想外だったのが、フロントノーズに用意された荷室。ボンネットを開くと、2名分の長期休暇の荷物を問題なく飲み込めるほど、大きな空間が広がっていた。

3.0L V8 32バルブエンジンは、すぐに目覚めた。フェラーリらしい気持ちを高ぶらせる脈動が、スーパーエイトの小さなキャビンを満たす。車内に搭載されていると表現しても過言ではなく、サウンドはスーパーカー以上に鮮明に届く。

クラッチペダルはやや重めで、ある程度の筋力が求められるが、大変なほどではない。ミートポイントを把握しやすく、調整しやすいパワーデリバリーで発進は難しくない。

現オーナーのハーバート・ファン・クイク氏のガレージから、カーブの続く公道へ進む。スーパーエイトのサスペンションが硬いことを実感する。ステアリングホイールは、斬新な見た目から想像する以上に情報量が豊か。シャシーの挙動も理解しやすい。

不安定になる素振りはほぼない走り

ハッチバックのボディにスーパーカーのエンジンという組み合わせだから、当初の筆者はかなり構えていた。ところが見事に融合しており、心配は信頼に転じていく。アクセルペダルを深く踏み込んでも、急に緩めても、不安定になる素振りはほぼない。

既に誕生から40年近くが経過するものの、技術的な水準の高さを感じられる。1台限りのワンオフ・モデルとは思えない。

スバッロ・スーパーエイト(1984年/欧州仕様)
スバッロ・スーパーエイト(1984年/欧州仕様)

一方で、想像通り独創的な体験ではある。インテリアは丁寧に仕立てられ、ディティールにも見入ってしまう。メーターは当時のフェラーリらしく、黒い盤面に白文字。ステレオはクラリオン社製で、カセットテープも再生できる。

バックミラーをのぞくと、レザーストラップで固定されるスペアタイヤが載った、通気口付きのパーセルシェルフが視界に入る。一段高くなっていて、その下にV8エンジンが潜んでいる。

残念ながらデザイナーのフランコ・スバッロ氏は、彫刻作品のように見応えのある、フェラーリ・ユニットをガラスカバーで鑑賞できるようには作らなかった。その後のスーパーカーのように。

きついカーブを曲がり、短い直線で加速。ブレーキングし、再び旋回。スーパーエイトは動じることなく、ハイスピードで左右に流れていく。流暢な身のこなしで、余裕すら感じられる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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