自然保護活動で交通安全が損なわれる英国 伸び放題の草で「他車が見えない」危険な状況に
公開 : 2023.06.12 06:05
英国では5月の1か月間、草刈りを行わない自然保護キャンペーンが広がっています。しかし、道路沿いの植物が成長したことでドライバーの視界が妨げられているという指摘も。交通安全と自然保護は両立できないのでしょうか。
5月は草刈り禁止? 運転視界の妨げに
英国では、一定期間中に草刈りをやめる「No Mow May(5月は草刈りをしない)」というキャンペーンが広がったことで、道路沿いに生息する草花が生い茂り、運転視界の妨げになっているという懸念の声が多くのドライバーから上がっている。
No Mow Mayとは、植物や野生動物の多様性を守るために、毎年5月の1か月間だけ庭の芝刈りなどの除草作業を行わないという活動で、英国に拠点を置く自然保護団体プラントライフ(Plantlife)が2019年から展開しているキャンペーンだ。蜜蜂のような花粉媒介者(送粉者)の活動の支援や、大気汚染の軽減に効果があると言われている。
この活動は今や英国全土に広がり、行政も参加しているが、その結果、冒頭のようにドライバーの運転視界を妨げ、安全性が損なわれるという批判の声も目立つようになった。一部の市民からは、「No mow may die(草刈りをしないと死ぬかもしれない)」という烙印まで押される始末だ。
今年6月、バッキンガムシャー州ハイウィカム近郊に住むコリン・ディアさんは、成長しすぎて危険と判断した道路沿い(英国ではverge/ヴァージと呼ばれる)の植物を一部刈り取り、視界の回復を図った。
ディアさんは地方紙バックス・フリー・プレスに、「ここ数週間、自宅近くの道路沿いの草がとても伸びていることに注目していました。過去には、他のクルマを目視できず、ひどい事故が起きたこともあります。今年は特にひどく、ヒヤリとするような場面を何度も見てきました。このままでは誰かが犠牲になると確信しました」とコメントを寄せている。
現地のカウンシル(協議会、地元自治体)の広報担当者は、道路利用者の視界を確保する必要性は認識しているが、草を刈る頻度を減らすことで野草や花粉媒介者にメリットがあり、節約した予算分は道路の補修に回されると述べている。
一部の植え込みが生い茂った状態について懸念を表明しているのは、ディアさんだけではない。例えば、デボン地方の街シドマスのFacebookコミュニティには複数のドライバーが書き込みを行い、草刈りをしないというカウンシルの決定によって視界が悪くなったとして、その交差点やラウンドアバウトの場所を挙げている。
ある住民は、「伸び放題の草は、道路をとても危険な状態にしているので、もう少し何とかしてほしい。昆虫の生息地を守ろうということなのでしょうが、人命を犠牲にしてまでやることではないはずです」と書いている。別の人はこう答えた。「おそらく、”No mow may…die “とすべきなのでしょう」
こうした懸念は、英国の王立自動車クラブ(RAC)が昨年実施した調査にも反映されている。この調査によると、ドライバーは地元の道路の芝生や枝葉のメンテナンス水準にますます不満を募らせており、この慣行が道路状況の悪化の原因になっていると考えているようだ。
自然保護団体プラントライフは、植物を繁茂させることの利点について認識を高めるために、No Mow Mayのキャンペーンを開始した。道路の管理義務はあるが、各地域のカウンシルは同キャンペーンの適応が認められており、生物多様性戦略を持つ300以上の自治体がプラントライフが推進するアプローチを採用している。
しかし、プラントライフに所属するマーク・スコフィールド氏は、同団体が提唱しているるのは草刈りをやめるという行為だけではないと言う。
「道路の場合、分別を持って管理することが重要です。ドーセット郡議会は、草木の生えた道路沿いの維持管理にカット・アンド・コレクト方式を採用しました。春と夏の終わりに年2回、刈り取りを行うのですが、刈り取った植物を放置して腐らせることなく、新たな生育を促すために取り除くか、もっと奥に捨ててしまうのです。道路沿いが肥沃でなくなるため、草丈が短くなり、刈り込みの回数が減るのです」
本来ならそうあるべきものだが、ドライバーたちからの反発は、それがうまく機能していないことを示唆している。
「わたしもドライバーの1人です」とスコフィールド氏は言う。「交通安全は重要であり、道路沿いの管理はそれを反映したものでなければなりません。背の高い植物は、車線変更、交差点からの脱出、カーブで速度を調整する人々にとって危険な存在です。道路沿いの速物は車道の延長と考え、安全性を高めるために管理しなければなりませんが、これによって自然の回復を助けるために全国的な規模で役割を果たせなくなるわけではありません」