大型の重量級SUVに「安全上の懸念」 環境にも悪影響… ユーロNCAP、トレンドに厳しい評価

公開 : 2023.12.08 06:25

・欧州の自動車安全テスト機関ユーロNCAPが、近年流行のSUVに厳しい指摘。
・クルマの大型化と重量増加は「安全規制によるものではない」と主張。
・ホンダZR-Vは惜しくも5つ星評価を逃す。

大型化と重量増加は「安全規制によるものではない」

欧州の自動車安全テスト機関であるユーロNCAPは、SUV人気の高まりに対し「安全上の懸念」を表明した。また、近年のクルマの大型化と重量増加は、厳しい安全規制によるものではないとしている。

ベルギーに本拠を置くユーロNCAPは、2023年最後のテストにおける11台の新型車の安全性評価を発表した。そのうちの7台はSUVで、メルセデス・ベンツEQE SUV、ホンダZR-VキアEV9、ビンファストVF8、シャオペンG9、BYDタン、BYDシールUだった。その他、BMW 5シリーズフォルクスワーゲンID.7スマート#3、ヒョンデコナ・エレクトリックがテストを受けた。

ユーロNCAPの衝突テストに臨むメルセデス・ベンツEQE SUV
ユーロNCAPの衝突テストに臨むメルセデス・ベンツEQE SUV    ユーロNCAP

SUVモデルの大半は最高評価5つ星を獲得したが、ユーロNCAPは「より重く、よりパワフルで、より背の高いクルマ」に向かう傾向が安全性を損なうと指摘し、小型で軽量なクルマよりも環境へのダメージが大きいと述べた。

ユーロNCAP事務局長のミヒエル・ファン・ラティンゲン氏は、「何年もの間、ユーロNCAPは自動車の重量を押し上げていると非難されてきました。安全装備を追加すれば質量が増すと考えられていたからです。実際にはそのようなことはありませんし、今日見られる車両重量の増加は、安全性とは無関係です。消費者がより大型のクルマを好むようになったことと、消費者のEV航続距離への不安を和らげるためにこれまで以上に大型のバッテリーが使われるようになったことによるものです」とコメントしている。

ファン・ラティンゲン氏はまた、この傾向は「安全にも環境にも役立たない」と指摘し、衝突事故や「交通弱者」が巻き込まれた場合に安全性への懸念が生じると述べた。

こうした懸念にもかかわらず、多くのSUVがユーロNCAPのテストで好成績を収めた。トップランクのメルセデス・ベンツEQE SUVは、特に運転支援技術で高得点を獲得したが、センターエアバッグシステムで評価を落とした。大型のキアEV9は、子供安全装備の充実により5つ星を獲得した。

また、スマート#3も目標値を達成したが、衝突時に前席の乗員2人が接触したことが指摘されたほか、子供のシートベルトが外れた場合に警告を発するシステムが装備されていないことが減点につながった。

ヒョンデ・コナ・エレクトリックについては、ユーロNCAPは「実に残念」であり、「3つ星を免れたのは幸運」とした。衝突回避システムと運転支援が不十分で、旧型からの十分な改善が見られなかったという。

また、ホンダZR-Vも5つ星に届かず、7台のSUVの中では1589kgと最軽量にもかかわらず4つ星だった。

中国車では、BYDタン、BYDシールU、シャオペンG9が5つ星を獲得した。ただし、シャオペンG9は歩行者の頭部保護と小柄な乗員の腹部保護が不足していた。

今回初登場となるベトナムのビンファストは、VF8で4つ星を獲得したものの、シートベルトの「堅牢性の欠如」で減点された。

上級セダンのフォルクスワーゲンID.7とBMW 5シリーズは、いずれも5つ星を「容易」に獲得した。ID.7は成人保護で今年最高クラスのスコアとなる95%を獲得。BMWは総合評価でID.7に並んだが、正面衝突時の乗員保護性能では及ばなかった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョナサン・ブライス

    Jonathan Bryce

    英国編集部。英グラスゴー大学を卒業後、モータージャーナリストを志しロンドンに移住。2022年からAUTOCARでニュース記事を担当する傍ら、SEO対策やSNSなど幅広い経験を積んでいる。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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