実際に発売も デザイナー志望の学生が「スーパーカー」に挑戦 プロの目に留まった4作品とは?

公開 : 2025.03.11 18:25

英国コベントリー大学に通う学生14名が、企業の「リアルな要求」に応えて新型スーパーカーのデザインに挑戦。プロの現役デザイナーによる厳しい審査をくぐ抜けた優秀作品を紹介します。

新型スーパーカーを創る特別授業

新世代の自動車デザイナーたちには同情を禁じ得ない。彼らはわたし達と同じようにクルマに夢中になって育つが、クルマを運転したい、所有したいという一般的な願望に加えて、自分だけのインスピレーションあふれるデザインを生み出したいという強い欲求を抱いているのだ。

こうした新進のジウジアーロたちが大学に入学すると、3年から4年をかけてクルマの創り方を学ぶが、彼らの多くは実際のプロジェクトやデザイン業務に携わることもなく卒業してしまう。競争上の理由から、たとえ将来の従業員になるような人であっても、自動車メーカーは製品計画を秘密にしているためだ。

英コベントリー大学の学生たちが次世代スーパーカーのデザインに挑戦。
英コベントリー大学の学生たちが次世代スーパーカーのデザインに挑戦。

これが、英ウェールズを拠点にゼロ・エミッションの水素燃料電池自動車を製造するリバーシンプル(Riversimple)社 と、コベントリー大学交通デザイン学部の学生14名からなるグループが、新型車の提案を目的とする共同プロジェクトを立ち上げた理由である。

リバーシンプルは『ラーサ』というユニークな軽量都市型2人乗り車を製造しているが、その事業は現在の業界標準からかけ離れているため、正式な競合相手はゼロに等しい。同社にとっては、秘密よりも宣伝こそが生命線だ。

間もなく、リバーシンプルの最新スーパーカーが登場する予定だ。この革新的だが風変わりなメーカーによる、新世代の水素フラッグシップモデルである。

同社の創設者であり、元モータースポーツ技師でクラシックカー修復家でもあるヒューゴ・スポワーズ氏のモットーは、「個人輸送による環境への影響を体系的に排除すること」である。そのため、走行時の副産物が純粋な水だけという水素燃料に重点的に取り組んでいる。

うまくいけば、軽量で美しい超少量生産スーパーカーが2020年代後半に発売されることになるだろう。

スポワーズ氏と、元自動車デザイナーでコベントリー大学の助教授であるアーマー・マフムード氏によって開催されたデザイン・コンペティションで、同大学の交通デザインコースの学生たちが、この特別な2人乗りクーペの実現に向けて第一歩を踏み出している。

「小型軽量」な水素燃料電池車

学生たちにとって、これは特別な課題である。視認性、照明、衝突安全性に関する現行の法律に準拠しながら、車内への乗り降りのしやすさと実用的な17インチのホイールとタイヤを備えたクルマを創り出そうというのだ。多くの初期デザイン案で見られるような、おかしな形のゴムで装飾された巨大な輪とは違う。

かつて仕事でシングルシートのレーシングカーを設計していたスポワーズ氏は、近年のハイパーカーの設計の方向性に強い拒否感を示している。巨大なクルマを非現実的なほど高いパフォーマンスで走らせるための、巨大なエンジンや巨大なバッテリーに牽引された「軍拡競争」と見なしているのだ。その結果生まれたマシンは非常に速いかもしれないが、「楽しくないどころか、不快で扱いづらい」と同氏は言う。

リバーシンプル社の求めるサイズやプロポーションを実現できるかどうかも、評価の鍵となる。
リバーシンプル社の求めるサイズやプロポーションを実現できるかどうかも、評価の鍵となる。

スポワーズ氏が構想しているのは、フェラーリ・ディーノ246 GTに近い寸法を持つスーパーカーだ。つまり、全長約4200mm、全幅約1700mmで、全高はディーノよりやや低い1100mm、ホイールベースは2300mmとなる。

パワートレインは、従来のフロントエンジンやリアエンジンではなく、分散配置されるという非常に珍しいレイアウトだ。

駆動は4基の電気モーター(各輪に1基ずつ)で行う。電力はフロントマウントの水素燃料電池から供給され、リアマウントの45kgのスーパーキャパシタアレイに蓄えられる。従来のバッテリーEVで使用されている500kg近いバッテリーとは異なり、非常に小型だ。

水素タンクは640kmを走行するのに十分な容量があり、シートの後ろに設置される。独自のパワートレインと軽量構造により、このスーパーカーの車両重量はわずか620kgで、1400~1800kgあるような一般的なバッテリーEVよりも大幅に軽い。そのため、スポワーズ氏はこの新型車の開発計画を「プロジェクト・チャップマン」と名付けた。これは、軽量かつコンパクトなものを何よりも愛したロータス創設者の名前に由来する。

燃料電池ならではの特性により、性能もユニークだ。0-160km/h加速はわずか6.4秒というスーパーカー並みの加速性能を持ちながら、最高速度は160km/hに抑えられている。

「最高速度は『上限』が設定されているわけではありません」とスポワーズ氏は説明する。「これはシンプルに、今回選択した燃料電池のサイズでこのクルマが達成できる最高速度です。わたし達は、これで十分だと考えています」

「もっと速く走るためには、より大きな燃料電池を搭載し、燃料タンクを大きくし、モーターやブレーキを大きくし、スーパーキャパシタを増やすことになります。つまり、重量増加のサイクルが始まり、本当に重要な動的特性が損なわれることになります」

「今回の設計では、燃料電池は最高速度160kmで一定に走行できるようなサイズとなっていますが、それだけです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    役職:編集長
    50年にわたりクルマのテストと執筆に携わり、その半分以上の期間を、1895年創刊の世界最古の自動車専門誌AUTOCARの編集長として過ごしてきた。豪州でジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせ、英国に移住してからもさまざまな媒体で活動。自身で創刊した自動車雑誌が出版社の目にとまり、AUTOCARと合流することに。コベントリー大学の客員教授や英国自動車博物館の理事も務める。クルマと自動車業界を愛してやまない。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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