ボルボ、CEOが退任 最後のインタビューで語った「業界の大変化」 自動車からITへ?

公開 : 2025.04.01 07:45

ボルボのジム・ローワンCEOが3月末で退任。最後のインタビューでは、自動車メーカーが直面する「ダーウィン的な出来事」と、今後のボルボの立ち回りについて語りました。

3年間ボルボを率いた経営者

スウェーデンの自動車メーカーであるボルボのジム・ローワン最高経営責任者(CEO)が、3月末をもって退任した。

ダイソン出身のローワン氏は、3年間のボルボ在籍期間中に新型EV『EX30』、『EX90』、『ES90』の発売を指揮し、ソフトウェア定義型車両(SDV)開発を推進する主要な推進役を務めてきた。

新型『ES90』を発表するボルボのジム・ローワン元CEO
新型『ES90』を発表するボルボのジム・ローワン元CEO

後任として、2012年から2022年までボルボを率いていた前CEOのホーカン・サミュエルソン氏が復帰することになった。

ローワン氏はAUTOCARの取材(退社前の最後のインタビュー)に対し、自動車メーカーは「ダーウィン的なイベント」に直面していると語り、ボルボが生き残るための計画を説明した。

アウトサイダー的なスタンス

「精神的な刺激と眠れない夜を求めているなら、この業界に入ってください」と、ボルボ・カーズCEOのジム・ローワン氏は言う。同氏は今からちょうど3年前、IT業界から自動車業界へと移ってきた。

他の自動車メーカーのCEOと比較すると、同氏は今でもアウトサイダー、あるいは異端児のように見える話し方をする。ソフトウェアスタック、コンピューターチップ、処理能力についてこれほどオープンかつ広範に語るのは、従来の自動車メーカーの中では依然として特異なことだからだ。

ボルボES90のインテリア
ボルボES90のインテリア

しかし、ローワン氏は、それこそが自動車業界の現状を物語っていると考えている。ライバル企業がなぜこれほどまでに遅れをとっているのか、そして、自社の存続がかかっているというのに、EVをまるで新しいもののように見せたり、語ったりしていることが不思議なのだという。

「わたしは自動車畑の人間ではありません。IT業界出身です。今でも電動化について、まるでそれが大きな出来事であるかのように語る人々の多さに、本当に驚いています。わたし達はバッテリーについても、モジュール構造についてもすでに知っています。シリコンカーバイド(炭化ケイ素)についても知っています。シリコンカーバイドは突然大きな注目を集めましたが、新しい技術ではありません。パワーエレクトロニクスなどについても知っています」

それよりも、自動車業界にとって今重要なのは「ソフトウェア、シリコン、コネクティビティ、データ」の4つであるとローワン氏は語る。そしてボルボは、これらすべての開発において進んでいるという。しかし、IT企業として生まれ変わろうとしているわけではない。このIT推進の真の狙いは、ボルボ車の安全性をさらに高め、より多くの命を救うという点にある。

「わたしの言うソフトウェアとは、フルスタックのソフトウェアのことです。クルマを適切に制御するためには、シリコンのレイヤー1からクルマのアプリケーションレイヤーまで、すべてを書き込める能力が必要です。それを実現しているのは世界で3社だけ。テスラ、リビアン、そしてボルボです。優れた自動車メーカーは数多くありますが、それを実現しているところはありません。これは非常に大きな課題であり、実現するのは非常に難しい。しかし、わたし達は挑み続けているのです」

この『スーパーセット(Superset)』と呼ばれる技術スタックは、すでにEX90とES90に搭載されており、今後発売されるすべてのボルボ車に採用される予定である。クルマの主要なハードウェアとソフトウェアの制御機能を、個別のECUではなく、セントラルシステムにすべて移行することで、より有意義で一貫性のあるOTAアップデートが可能になる。特に安全技術の観点において、事故やヒヤリハット(事故に至らなかった事象)から得た車両データを将来の事故回避に役立てることができる。

こうしたデータを処理するために、ボルボは独自のクラウドアーキテクチャーを開発しているが、これは「ほとんどの企業がやっていない」ことだとローワン氏は言う。このアプローチにより、ボルボはすべてのデータを管理し、遠隔操作でクルマの安全性を高めることができる。既製のクラウドを購入することとは対照的で、ボルボは現在、スウェーデンで2番目に大きなデータセンターを所有している。

「当社はアルゴリズムをクラウドアーキテクチャー内で実行し、それを車両に送り返すことで、車両をより良く、より強固にし、アルゴリズムを強化しています」

では、なぜボルボはこれほどまでにITを重視しているのだろうか? 顧客はどう反応しているのか、そもそも知る必要があるのだろうか?

ローワン氏は、こうした先進的な独自技術と自社の運命をコントロールできる経営体制が企業価値の向上につながるとしながらも、「株価はまだその評価を示していない」と指摘する。

顧客にとってのメリットとしては、ボルボが「車内のあらゆるノード」をリモートコントロールすることで、さらに多くの機能が追加されるようになる。「人々は、そこから得られるさまざまなユースケースをまだ模索しているところです」とローワン氏は言うが、センサーやカメラからダッシュカムが作成されたり、自分のクルマや駐車場所を遠隔で確認できるアプリが作成されたりしている例を挙げている。

「しかし、最も重要なのは安全性に関することです。当社はあらゆるデータを入手できるので、あらゆる衝突事故のアルゴリズムを調べることができるのです。衝突事故の様子を目で確認することが可能です。例えば、雨の降る日曜の午後に事故が起きたとしたら、そのクルマから録画テープを入手し、何が起きたのかを正確に知ることができるでしょう。そして、『光が少なく、少し滑りやすい状況で、3ナノ秒早くエアバッグが展開されていたら、命が助かったはずだ』というような判断ができます。それは安全ブランドであるボルボとして意味のあることです。これらすべてをお客様に提供できるようにしなければなりません」

記事に関わった人々

  • マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    役職:編集者
    自動車業界で10年以上の経験を持つ。欧州COTYの審査員でもある。AUTOCARでは2009年以来、さまざまな役職を歴任。2017年より現職の編集者を務め、印刷版、オンライン版、SNS、動画、ポッドキャストなど、全コンテンツを統括している。業界の経営幹部たちには定期的にインタビューを行い、彼らのストーリーを伝えるとともに、その責任を問うている。これまで運転した中で最高のクルマは、フェラーリ488ピスタ。また、フォルクスワーゲン・ゴルフGTIにも愛着がある。
  • 林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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