テスラの販売にイーロン・マスク氏の「影響」はあるのか 現場で見たリアル

公開 : 2025.04.22 06:45

イーロン・マスク氏の言動がテスラのEV販売に悪影響を及ぼすと言われていますが、果たしてそれは本当なのか。AUTOCARの記者が英国のディーラーを訪れ、現場のリアルな感覚を探りました。

営業担当者「自然に売れる」

好きか嫌いかは別として(イーロン・マスク氏に対する見方によっても大きく左右されるかもしれないが)、テスラのEVは最近、路上でよく見かけるようになった。

モデルチェンジされた新型『モデルY』を発売し、販売チャートで追い上げを図る中、テスラはたびたびシュールームに潜在顧客を招き、新型車の試乗会を開催している。

筆者は普通の「お客」として英国のディーラーを訪れ、来場者や担当者から話を聞いた。
筆者は普通の「お客」として英国のディーラーを訪れ、来場者や担当者から話を聞いた。

筆者も地元(英国)のテスラディーラーから招待状を受け取った。筆者はこの機会を利用して、同社がどのように自動車を販売しているかを密かに観察し、初めてEVの購入を検討している人や、乗り換えを考えているEVドライバーたちに会うことができると期待した。

英国自動車製造販売者協会(SMMT)によると、英国における昨年の自動車販売台数の19.6%をEVが占めた。2023年比で5分の1増加したものの、ZEV規制で政府が定める22%の目標にはまだ達していない。

2024年を通じてテスラの英国市場シェアは低下したが、年末には1.54%増とわずかに回復し、モデルYは英国で5番目に人気のあるクルマとなった。

いずれにせよ、数か月前、筆者は招待状を手に、普通のお客のふりをしてテスラのギルフォード店を訪れた。セールスアドバイザーは早速、モリソンズのケーキとネスプレッソのコーヒーで筆者の興味を引きながら、新しいモデル3ロングレンジを紹介してくれた。

個人向けローン契約でメンテナンス付き、年間走行距離1万6000km制限の場合、12か月分の頭金(4488ポンド/約85万円)を支払うと3年間で月額374ポンド(約7万円)かかるとのことだ。

ちょっと高すぎる? 代わりに、月額324ポンド(約6万円)の標準グレードもあったが、在庫はわずかだという。担当者は「ほぼ完売で、数か月は新車が入荷しません。その頃には契約条件も変わっているかもしれません。ロングレンジのモデル3を試乗して、よく検討してみてください」と言った。

近所を1周してショールームに戻ると、筆者はモデル3の購入を検討している男性に声をかけた。彼の社用車(カンパニーカー)であるフォルクスワーゲンパサートGTEが間もなく返却予定のため、節税対策でEVへの買い替えを考えているところだった。

BYDシールを運転したことがありますが、中国車らしさが強く、計器盤はテスラよりも従来型のものでした。EVを購入するなら、品質、性能、充電ネットワークを考えるとテスラになります」

次に、モデルYの試乗から戻ってきた男性に話を聞いてみた。

「わたしは社用車でアウディQ4 eトロンに乗っています。素晴らしいクルマですが、航続距離と充電器の心配があります。サービスステーションの充電ポイントは混雑することが多く、長時間待たされがちです。また、テスラのスーパーチャージャーを利用しようとしても、クルマが対応していないこともあります」

「幸い、わたしのアウディにはオプションのヒートポンプが装備されているので、航続距離に影響を与えることなく車内を暖めることができます。ヒートポンプを装備していない同僚は航続距離が大幅に短く、バッテリー切れを避けるために帽子とコートを着用して運転しています。会社が車両手当を導入したため、同僚は航続距離と充電の理由だけでなく、ヒートポンプが標準装備されていることから、テスラに乗り換えることにしました。わたしもそうするつもりです」

別の男性は、ボルボXC60で帰る準備をしていた。

「ボルボの社用車税は月額150ポンド(約2万8000円)ですが、モデルYは50ポンド(約9500円)です。迷うことはありません。わたしは仕事で1日300km走るので、テスラの航続距離と充電のしやすさも大きな魅力です」

最後に、モデルYの試乗から戻り、アウディQ5に手荷物を積み込んでいた子連れの夫婦と話すことができた。

「妻は、給与天引きでEVを購入できるんです」と夫が言う。「アウディのディーラーが、わたし達のクルマ(2018年登録、走行距離8万km)を2万ポンド(約375万円)で買い取ってくれるので、今が買い替えるチャンスだと思っています」

この日、ショールームには来場者が絶え間なく訪れていた。「今週末は忙しくなりそうです」と担当者が言った。「幸い、クルマは自然に売れていきますから」

ビジネスユーザーにとっては、確かにそうだろう。イーロン・マスク氏の最近の政治的発言が販売に悪影響を及ぼす可能性があると指摘されていたにもかかわらず、2月のテスラの販売台数は前年同月比で20%上増加した。

ただし、英国市場ではEV全体が前年同月比で約42%増加しており、これは4月からEVが自動車税の課税対象となることから、駆け込み需要によるものである。

しかし、激しい競争の中、モデル3とモデルYが3月の英国新車販売ランキングで2位と3位を獲得したことは、テスラにとって心強い結果となるだろう。筆者がその成功に貢献したとは決して言えないが、貢献した人を1人か2人知っていると思う。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    役職:特派員
    フリーランスのジャーナリストで、AUTOCAR英国編集部の元スタッフ。姉妹誌『What Car?』誌の副編集長や『Practical Caravan誌』の編集長なども歴任した。元自動車ディーラーの営業マンという経験を活かし、新車・中古車市場や消費者問題について幅広く取り扱っている。近年は、これらのニュースや特集記事に加え、アイスクリーム・ワゴンのDIY方法から放置車両の探索まで、さまざまな記事を寄稿している。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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