ポルシェ新型『カイエンEV』がまもなく登場 さっそく試乗してきた

公開 : 2025.07.14 06:45

ポルシェの新型『カイエンEV』が、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで走りを披露しました。AUTOCAR UKの編集長が同乗試乗し、圧倒的な加速力や安定したコーナリング性能を確かめました。

ヒルクライムレースに同乗試乗

かなり背が高い。そしてかなり大きい。レンジローバーほどではないかもしれないが、それに近い。グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードのヒルクライムを全開で走る新型カイエンEVは、ポルシェ史上最大のモデルだ。

筆者は高い位置に着座している。0-97km/h加速を3秒で走れるクルマなら、路面にしっかりと密着しているだろうと思うかもしれないが、このクルマは違う。筆者の座る助手席からは、木々が立ち並ぶコースをまっすぐ進んだ先にある、ダブルエイペックスの右コーナーが見える。フルスロットルでそこに到達したとき、このカイエンのボディロールはどのような感じになるのだろうかと想像する。

グッドウッドのヒルクライムレースに挑むポルシェ・カイエンEV
グッドウッドのヒルクライムレースに挑むポルシェ・カイエンEV    AUTOCAR

実は、もう大まかな予想はついている。これはポルシェだ。しかも、最新世代のアクティブダンパーを装備し、太いタイヤを履いたポルシェだ。1Gのコーナーでも、しっかりと安定して走れるだろう。

このカイエンの高さには、他にも理由がある。まず、容量100kWh以上の駆動用バッテリーが搭載されている。2基のモーターの合計出力は1000ps以上と聞いているが、オフロード性能も重視しているため、十分な最低地上高が必要なのだ。

ドライバーは、チェコ出身のGTレーサーで、ポルシェのテストドライバーとして多くの開発走行を担当しているガブリエラ・ジルコヴァ氏だ。彼女はGT4レースから上位クラスへの昇格を目指しており、その機会は必ず訪れるだろう。

「クイック・ガビ」の愛称で知られる彼女は、カイエンEVの大きく、サポートのしっかりしたシートに小さく座っている。しかし、静かにスタートラインに近づくと、スタートの緊張に慣れたレーシングドライバーの顔、穏やかな集中力にあふれた表情をすでに浮かべている。

突然、わたし達は待機列の先頭に立った。前方のタイカンは右コーナーを曲がり、姿を消した。次はわたし達の番だ。これはEVだが、オプションのシンセサイザーが、適切な音量でV8のエンジンサウンドを立てている。この場所にふさわしい音だと思う。

圧倒的な加速と安定したコーナリング

グッドウッドのスタート係が親指を立てる。強い加速を予想していたが、実際に感じたのは爆発的な加速だった。頭が背もたれに抑えつけられ、それまでは堅く感じていたシートに数インチ沈み込み、内臓の位置がぐるぐる変わる。荷重は一瞬で伝わるが、車内は驚くほど静かだ。

このクルマのトルクがどれほどあるのか、まだ誰も教えてくれないが、間違いなく4桁のポンド・フィート(138kg-m以上)はあるだろう。4本の太い22インチのピレリPゼロ・タイヤを通じて一瞬で全トルクが伝達されるにもかかわらず、ホイールスピンはほとんど聞こえない。これが電子制御の力だ。

グッドウッドのヒルクライムレースに挑むポルシェ・カイエンEV
グッドウッドのヒルクライムレースに挑むポルシェ・カイエンEV    AUTOCAR

両側の木々はぼやけて見え、最初のダブルエイペックスに差し掛かる頃には145km/hに達しているはずだ。ガビがブレーキを軽く踏んだように感じたが、おそらくこのEVの強力な回生ブレーキによる減速も大きいのだろう。エイペックスの芝を2度掠め、再び圧倒的な加速が始まる。

木立を抜けると、コースは直線になり、幅も広がる。カイエンが左手の大きな邸宅を通り過ぎ、他のドライバーなら狂気とさえ思えるようなスピードで橋の下を駆け抜ける間、筆者は両側にぼやけた何千もの顔を見た。

ガビに一瞬目を向けると、彼女は依然として冷静で、ステアリングの微調整を繰り返している。そして、わたし達は『モールコム』に近づいている。この小さな丘の向こうに隠れた逆傾斜の左コーナーは、長年、多くの優秀なグッドウッド参加者を苦しめてきた。

だが、今回は違った。まるでレールの上を走るように、筆者の体はシートに張り付いたまま、そのコーナーを突き進んだ。陽光の中に飛び出すと、両側のスタンドに集まった群衆に気付く。そして、有名なフリントウォールがまっすぐ前に現れた。

一見、難所のように見えるが、ガビとカイエンにとっては簡単な高速コーナーだ。このようなコーナーは、車高の高いクルマでは不安定になるが、ポルシェはスポーツカーのように安定している。これはまさにスポーツカーだ。

残りのコースは、大きく左、右と楽に曲がり、すぐに木陰に戻る。日陰のトンネルを駆け上がり、フィニッシュラインを通過した。これは、おそらく筆者の人生で最も速い、スリル満点の1分間だったと思う。

フィニッシュ時のスピードメーターを確認しようとを心に決めていたが、当然のように忘れてしまった。このような経験の後では記憶が曖昧だが、トップスピードは160km/hを超えていたはずだ。ガビは185km/hだと言う。フィニッシュラインのマーシャルのぼやけた顔が見え、レースは終わった。

速度が徐々に落ち、ヒルクライムの頂上にあるマーシャルループにゆっくりと進入する。ここで同じグループのマシンが集合し、ピットへの帰還を待つ。「いい感じ」とガビは満足そうな笑みを浮かべる。「最高だ」と筆者も答える。

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    役職:編集長
    50年にわたりクルマのテストと執筆に携わり、その半分以上の期間を、1895年創刊の世界最古の自動車専門誌AUTOCARの編集長として過ごしてきた。豪州でジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせ、英国に移住してからもさまざまな媒体で活動。自身で創刊した自動車雑誌が出版社の目にとまり、AUTOCARと合流することに。コベントリー大学の客員教授や英国自動車博物館の理事も務める。クルマと自動車業界を愛してやまない。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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