最先端を突っ走ったバン フォード・トランジット Mk1からMk3(2) 好評だったスライドドア

公開 : 2025.09.06 17:50

経済成長に貢献する質素な鉄の箱、トランジット 短いエンジンルームへ収まるV型4気筒 銀行強盗も重宝した能力 洗練度を増した3代目 最先端を突っ走った商用バンをUK編集部が振り返る

トラックを操っているような雰囲気

フォード・トランジットの2代目への交代は、1978年。「シートから後ろは、Mk1とほぼ同じ構造でした。それまで使っていた、作業台や荷物棚などを流用できたんです。13年を経て、整備への理解度も相当高まっていました」。ピーター・リー氏が説明する。

エンジンは、1.6Lか2.0Lの直列4気筒「ピント」ユニットへ置換。V4エンジンから、信頼性は高められた。キャビンはモダンになり、ダッシュボードには複数のメーターが並べられた。印象を乗用車へ近づけたいという、フォードの狙い通りに。

フォード・トランジット Mk2(1978〜1985年/英国仕様)
フォード・トランジット Mk2(1978〜1985年/英国仕様)    ジョン・ブラッドショー(John Bradshaw)

実際に走らせると、トランジット Mk2は、Mk1より意思疎通しやすい。それでもステアリングホイールは重く、駐車はかなりの重労働。水平に寝かされ、トラックを操っているような気にもさせる。

Mk1ではフロアから突き出ていたペダルは、上からの吊り下げ式に。位置はやや遠く、シフトレバーと同時に操ることが難しい。ほどなく人間工学へ配慮され、身長が180cmなくても運転しやすくなったが。

洗練性を増した3代目 スライドドアが標準に

「壊れていない部分は直さない」という哲学を表すように、Mk2はMk1の改良版といえた一方、1986年にリリースされた3代目は完全な次世代。新設計プラットフォームのVE6が採用され、スタイリングも時代に合わせたものへ進化した。

傾斜したフロントノーズで空力特性は改善され、内装も同年代へ相応しいものに。遮音性が高められ、走行中の車内は大幅に静かにもなった。それでいて、荷室の容量は変わらず不足なかった。現行型へ、影響を与えたデザインでもある。

フォード・トランジット Mk3(1986〜1994年/英国仕様)
フォード・トランジット Mk3(1986〜1994年/英国仕様)    ジョン・ブラッドショー(John Bradshaw)

「ロンドンでは、車道側へ出ずに荷降ろしできることが好評でした。リアドアから降ろすのと比べて、歩く距離も1度で数m違いますから」。Mk3では、ボディサイドのスライドドアが標準装備になっていた。

働くクルマとして酷使されるトランジットだから、状態の良い旧式は非常に珍しい。サビを免れていても、メカニズムはすっかり傷んでいる場合が珍しくない。クラッチやブレーキのフィーリングが、生きて来た時間を物語る。

常に最先端を突っ走ってきたクルマ

今回のMk3は1989年式で、オプション満載で仕立てられた、数量限定のボーナス仕様。過去には、成績トップのスタッフへ贈られたのだろう。現在のオーナーは、2019年にガードバーを追加。再塗装済みだが、ボーナスのステッカーは大切に残された。

Mk3は1994年にマイナーチェンジを受け、ヘッドライトが丸目になり、柔らかい印象へお化粧直し。パワーウインドウにエアバッグ、集中ドアロック、エアコンの設定で、現代的な水準へアップデートされた。

フォード・トランジット Mk3(1986〜1994年/英国仕様)
フォード・トランジット Mk3(1986〜1994年/英国仕様)    ジョン・ブラッドショー(John Bradshaw)

「独立懸架式のサスペンションを得た、初めてのバンです。ATを選べた最初のバンでもあります。常に最先端を突っ走っていました。トランジットは、時代とともに進化を重ねてきたんです。手押し台車から、宇宙船のようにね」。リーが微笑む。

21世紀のスタイルへ合わせ、現行型は移動オフィスにも使えるとフォードは強調する。人生を豊かにするのに、必ずしも高級SUVを選ぶ必要はない。家族全員にキャンプ道具、自転車やノートパソコンと一緒に、遠くを余裕で目指せるクルマは今でも多くない。

協力:フォード・モーター社UK、トランジット・バン・クラブ

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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