進化を続ける日産eパワー!世界初コールドスプレー工法を用いたバルブシート採用【自動車ニュースを読む】

公開 : 2025.10.20 07:05

毎日のように発信されるプレスリリースの中から1本をピックアップし、ジャーナリスト橋爪一仁が分析するコラムです。今回は、日産が世界初採用したeパワー向けコールドスプレー工法を用いたバルブシートのニュースを解説します。

日産eパワーのメリットと人気の秘密

日産自動車(以下日産)の人気モデルを支える『eパワー』は、エンジンによって発電された電気を利用してモーターで走行するシリーズハイブリッド型に分類される。『ノート』、『セレナ』、『エクストレイル』といった人気モデルを始め、多くのモデルに搭載されるカーボンニュートラルに向けた日産を代表する技術のひとつだ。

人気モデルにもeパワーの存在は欠かせず、2016年に『ノート』に初搭載されて以来、着実にユーザーを増やしてeパワーは確固たるブランドへ成長した。

第3世代に突入したeパワー。欧州では新型キャシュカイ、日本では新型エルグランドに搭載される。
第3世代に突入したeパワー。欧州では新型キャシュカイ、日本では新型エルグランドに搭載される。    日産自動車

eパワーはモーターの動力で走るため、低速からの力強いトルクによって、ストレスのない走り出しと登り坂や追い越しの加速といった状況においても、心地良い優れたドライバビリティを提供する。

メリットは、エンジンを発電機として利用するため高効率(熱効率の高い回転域や負荷)運転領域を多用できるところと回生ブレーキによる充電にあり、通常のエンジン動力から変速機を介してダイレクトに走るよりも、特に市街地の走行など加減速の多い状況で燃費やCO2削減に効果がある。

しかし、通常のエンジン動力から変速機を介してダイレクトに走る場合に効率が高い、高速道路を一定速度で走る場合等の状況においては、eパワーの燃費やCO2は相対的に増える傾向にある。

つまり、市街地走行を多用する場合にこそeパワーの効果が発揮されるため、結果的に日本の多くのユーザーがその恩恵を受けることができているわけだ。

世界初となるコールドスプレー工法採用

先日日産は、第3世代eパワー向けエンジン『ZR15DDTe』に自動車用エンジンとして世界初となる、コールドスプレー工法を用いたバルブシートを採用したと発表した。

コールドスプレー工法とは、粉末材料を超音速で吹き付け被膜を形成する技術で、2000年代から航空宇宙産業や重工業などを中心に発展。表面改質以外にも材料を層ごとに積み重ねて物を作る製造方法にも応用され、近年注目されている。

自動車用エンジンとして世界初となる、コールドスプレー工法を用いたバルブシートを採用。
自動車用エンジンとして世界初となる、コールドスプレー工法を用いたバルブシートを採用。    日産自動車

日産は現在、STARC(Strong Tumble & Appropriately stretched Robust ignition Channel)という高い熱効率を実現する燃焼コンセプトに基づいて、着実にカーボンニュートラルに向けてエンジンの開発を進めている。

エンジンの熱効率を高めるためには、いかに上手に燃料を燃焼させて熱エネルギーを最大化するか? そして、いかに熱エネルギーを無駄にせずに冷却や排気、フリクションといった損失を最小化するか? が肝要である。

STARCコンセプトでは、吸気ポートから燃焼室へ入る空気流の乱れを極限まで抑えて、強いタンブル流(縦方向の渦巻き)を形成することが重要とされる。そのため一般的な別体のバルブシート(バルブの受け)圧入構造では、その形状に製造工程から制約があるので理想的にするのは難しい。

今回、日産の開発したコールドスプレー工法を用いたバルブシートは、アルミ合金製のシリンダーヘッドの表面に被膜を形成するため、別体のバルブシートが不要となり、理想の吸気ポート形状により近づけられる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    橋爪一仁

    Kazuhito Hashizume

    ジャーナリスト。自動車業界を経て現在はアビームコンサルティング(エグゼクティブ・フェロー)。企画業務を中心に自動車のブランド・オリジナリティ時代におけるCASE、DX×CX、セールス&マーケティング、広報、渉外、認証、R&D、工場管理、生産技術、製造等の幅広い領域を研究、アドバイザー業務を中心に活動中。特に自動車を経済と技術の側面から分析するのが専門。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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