【現役デザイナーの眼:アウディA5】セダンやワゴンデザインの難しさ 立体構成で勝負 圧巻のリアビュー!

公開 : 2026.02.24 12:05

現役プロダクトデザイナーの渕野健太郎によるデザイン分析。今回取り上げるのは、『アウディA5』です。セダンやワゴンでは難しい、新しさを表現したデザインを解説します。特にリアビューは圧巻との分析です。

難しいカテゴリーにおける『新しさ』の表現方法

アウディが初のF1参戦を発表し、スポーティなブランド像を改めて強める中で登場したのが新型『アウディA5』です。

電動化一辺倒からエンジン車との共存へと舵を切る動きも見られるなか、伝統的なプロポーションを持つこのA5には、デザイン面でもこれまでとは異なる印象を持ちました。特に注目すべきは、セダンやワゴンという難しいカテゴリーにおける『新しさ』の表現方法です。

アウディのセダンはサイドガラスが片側3枚の『6ライトキャビン』を採用する。
アウディのセダンはサイドガラスが片側3枚の『6ライトキャビン』を採用する。    アウディ

現在の主流であるSUVは、キャラクターの振り幅が大きいクルマです。例えばアウトドア系から都会派まで多様な表現が可能で、デザイナーとしても楽しい車種なんですね。

一方でセダンやワゴンは、パッケージが極めてオーソドックス。また、基本的にフォーマルなデザインを期待するものであり、デザイナーの自由度はあまり高くありません。

セダンやワゴンデザインにおいて、差別化ポイントとしてまず挙がるのは、サイドシルエットです。とりわけCピラー(ワゴンならDピラー)の処理をクーペライクにするか、伝統的にまとめるかで印象が決まります。しかし逆に言えば、そこ以外での差が出しにくいジャンルでもあるわけなんですね。

ブリスターを明確なボリュームとして表現

そんな中、新型A5はシルエット以上に『立体構成』で勝負してきました。

近年のアウディはブリスターフェンダー(アウディの言うクアトロ・ブリスター)を強調してきましたが、今回はそれをより明確なボリュームとして表現。全長4835mm、全幅1860mm、全高1455mmのサイズは、先代モデル『A4』よりやや大きいですが、特にリアビューは圧巻です。

元々のプロポーションに加え、張り出したブリスターフェンダーで抜群のスタンスの良さを感じさせます。
元々のプロポーションに加え、張り出したブリスターフェンダーで抜群のスタンスの良さを感じさせます。    アウディ

全幅はA4と比較すると15mmの拡大にとどまりますが、実際の印象はそれ以上。フェンダーの張り出しとリアまわりの立体処理により、筋肉質でソリッドな面表現、しっかりと踏ん張ったスタンスを強く感じさせます。またその立体がリアコンビランプまで波及しており、これまでのアウディには見られなかった立体構成だと思います。

ここ数年のアウディは、やや線を強調しすぎた印象もありました。しかしA5は、細かなキャラクターラインよりも大きな面と塊で見せる方向へと回帰。もともとプロポーションに強みを持つブランドだからこそ、この変化は非常に理にかなっています。

6ライトキャビンのセダンと、寝かせたDピラーのアバント

アウディのセダンは、なだらかなCピラーを持つ6ライトキャビンが特徴です。これは伝統的な3ボックスセダンよりもスポーティで軽快。ライバルであるメルセデス・ベンツBMWとは異なる個性を築いてきました。

興味深いのは、今回のA5が実質的にハッチゲートを採用している点です。見た目はセダンでありながら、使い勝手はワゴンに近い。デザインと実用性の両立という意味で、新しいセダン像を提示していると言えます。SUV全盛の今だからこそ、オーソドックスなパッケージの中で立体構成と面の力で勝負するA5の存在は際立ちますね。

寝かせたDピラーによる躍動的シルエットが象徴ですが、そこに強調されたフェンダーが加わりました。
寝かせたDピラーによる躍動的シルエットが象徴ですが、そこに強調されたフェンダーが加わりました。    アウディ

ワゴンモデルである『アバント』は、アウディがワゴンに与えてきた伝統的な呼称です。ステーションワゴンを単に『荷物を積むクルマ』としてではなく、スポーティさや先進性を備えたプレミアムワゴンとして新たな価値を見出した先駆者でしょう。一時期のワゴンブームを経て、その後のSUV全盛に繋がるモデルのひとつとも言えます。

寝かせたDピラーによる躍動的なシルエットがその象徴ですが、A5アバントでは、この伝統的なスポーティさに加え今回強調されたフェンダーボリュームが加わりました。これまでのワゴンという枠に収まらない、力強さと安定感を併せ持つ造形へと進化しています。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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