【第14回】サイトウサトシのタイヤノハナシ~タイヤはゴムでできている、のだけれど~
公開 : 2025.11.19 12:05
タイヤなら走らせるのも眺めるのも大好きなサイトウサトシが、30年以上蓄積した知識やエピソードを惜しみなく披露するこのブログ。第14回はJMS2025での展示を振り返りながら、新時代のタイヤの素材を考えます。
廃タイヤや植物からタイヤを生み出す
ジャパンモビリティショー(JMS)2025に行ったら、靴底がトレッド剥離してしまったサイトウです。
幸い、カーカスが出て歩行困難になってしまったわけではなく、2層トレッドの1枚目が剥がれただけだったので、何とか歩行可能で、大事には至らず無事レポートも書くこともできました。

さて、JMSのタイヤブースはすでにレポートしている(編集部注:【ダンロップ/ブリヂストン/横浜ゴム】最先端技術満載の取り組みをリアルに実感!タイヤ3社の出展内容をチェック #JMS2025)のですが、改めて振り返ってみたいと思います。
ボクが特に興味深かったのは、各メーカーともゴムの材料となる石油由来の合成ゴムを、廃タイヤ(ブリヂストン)や植物(住友ゴム、横浜ゴム)から作っている部分でした。
文字通り、石油依存の材料を他のもので代替しようというアプローチです。
脱石油依存のタイヤは、じつは2013年にダンロップ(住友ゴム)がエナセーブ100を市販化しています。
タイヤのゴムの主要材料はブタジエンラバー(BR)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ナチュラルラバー(NR)です。
住友ゴムは、このうち天然ゴムと独自の天然ゴム改質技術を用いた改質天然ゴムを使ってタイヤを作ったのです。もちろんタイヤケース(骨格材)や補強材、添加剤も100%天然資源でした。
今考えてもすごい内容のタイヤだったのですが、当時は脚光を浴びるというほど注目されませんでした。ちょっと時代が早すぎたのかもしれません。
タイヤのゴムの材料、『ブタジエン』
今年のJMSのタイヤブースでは『再生』がひとつのテーマで、各メーカーとも再生カーボンブラックも展示されていましたが、ボクが興味をひかれたのはブリヂストンと横浜ゴムに展示されていた『ブタジエン』です。ブタジエンはタイヤのゴムの材料です。
展示されていたのは、ポリマーと呼ばれる樹脂のような塊でした。でも、たぶんブリヂストンも横浜ゴムもポリマーを作れることを示したかったわけではなく、ブリヂストンならタイヤ由来のリサイクルオイル(ナフサ等)の精製、横浜ゴムであれば、未利用バイオマスからエタノール精製に成功したことと、別ルートで未利用バイオマス材料から植物原料からのバイオブタジエン、イソブレンの製造技術を開発したことが重要だったのだと思います。

ブリヂストン(とENEOS)は、廃タイヤからナフサの精製に成功しました。このナフサを石油コンビナートのナフサクラッカーと呼ばれる熱分解装置に投入すると、エチレン、プロピレンとともにブタジエンが生成されます。これに溶液重合という方法を使うことで、JMSのブースで展示されていたブタジエンの塊(ポリブタジエン)が出来上がるわけです。
展示では触れていませんでしたが、合成ゴムのもうひとつの材料であるスチレン・ブタジエンゴム(SBR)もナフサから作り出すことができます。
ナフサクラッカーにより生成されたエチレンに、同じくナフサから得られるベンゼンを原料として合成すると、スチレンモノマーが合成され、ブタジエンモノマーと共重合(2種類以上のモノマーを混ぜ、ひとつのポリマーを合成する化学反応)させることで、スチレンブタジエンを製造することができます。
これにゴムの木から取れる生ゴム(ナチュラルラバー=NR)を組み合わせれば、また新しいタイヤが作れるというわけです。
JMSのレポートの所でも触れましたが、このタイヤ再製造過程の凄いところは、不可逆性の製品であるタイヤから、タイヤの原料を再び作れるという言う道筋を作ってしまったところにあります。

