【キャデラックがベースの奇抜なレーサー】 ル・モンスト・ロードスター 後編

公開 : 2020.08.01 16:50  更新 : 2020.12.08 08:32

オリジナルは博物館に保管される、奇抜なキャデラック・ベースのレーサーが存在します。熱狂的なファンによって復元され、2018年のル・マン・クラシックへ参戦した、モンスターと呼ばれた斬新な1台をご紹介しましょう。

4ドアのキャデラックとエンジンを換装

text:Julian Balme (ジュリアン・バルメ)
photo:Will Williams(ウィル・ウイリアムズ)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
2016年のル・マン・クラシックへの準備を進めるドリンクウォーター夫妻。「4ドアのキャデラックもクリーニングし、ブレーキとエンジンオイルを交換しました。想像よりずっと状態は良く、1950年からの走行距離は1万3600km。そこでル・マンまでの足にしました」

デレクは2ドアのキャデラック・シリーズ61クーペをレーサーへ改造した。「基本的には、いままでに仕事でしてきた内容と共通で、作業は順調に進みました」 夫のデレクが振り返る。

 キャデラック・シリーズ61クーペ・レーサー・レプリカ(1950年)
キャデラック・シリーズ61クーペ・レーサー・レプリカ(1950年)

彼はレブス・インスティチュートで、数百枚ものオリジナル車両の写真を撮影していた。ボンネットのストラップの位置やドアパネルの色も、正確にわかるほど。細部の仕上げや正確さを優先して、レプリカ・レーサーの制作を進めた。

外注した5.4L V8エンジンのリビルトは失敗だった。「自分の溶接と同じレベルの仕上がりでした。会社の評判が良かっただけに、がっかりしました。予選のピットレーンを出発しようという間際、おかしいことに気づいたのです」

「1周目でピットインしたのですが、スタッフからもう一度コースに出るように指示されました。出てすぐ、ダンロップ・ブリッジの手前でストップ。なんとかスタートラインは2度通過したので、本戦へ進めました」

エンジンは走れないほどではないものの、不良品と呼べるものだった。「キャデラックをキャンプサイトへ戻し、計画を練りました。妻のパットは、すでにエンジンを下ろす準備を進めていました」

「翌朝の午前3時に、ル・マンまでの足とした4ドアのキャデラックから2ドア・クーペへ、エンジンの載せ替えが完了。レースへの準備は間に合いました」 その実行力を誇るように振り返る。

ル・モンストのコピー制作を決意

スターティング・グリッドへ、シリーズ61クーペのレーサーが並んだ。古いル・マン流スタート方式で、ドライバーはコースを横切り乗車。スタートを切った。

4ドアのキャデラックに載っていた、まったくテストしていないストックエンジンでのル・マン・クラシック。ドリンクウォーターは焦らず、完走を目指した。

キャデラック・ル・モンスト・ロードスター・レプリカ(1950年)
キャデラック・ル・モンスト・ロードスター・レプリカ(1950年)

しかし途中、ジェイソン・ケネディとルイーズ・ケネディがドライブする、ランチア・アウレリアとのバトルに巻き込まれる。「流れに任せようと決めました。大きな戦艦のようなボディですが、ランチアを追える走りでした」

「ルイーズは、彼女のベストラップから17秒も速いタイムで逃げましたが、わたしも離されずに走れました。でも、彼女を追い越すとポルシェ・カーブの真ん中でスピン。ギアシフトが壊れたんです」

デレクは夢を叶えるため、シリーズ61クーペでル・マンのフィニッシュラインをなんとか通過した。シフトコラムを治すと、エンジンのない4ドアのキャデラックがトレーラーに積まれた。レースカーは自力で家へと帰った。

ル・マン・クラシックへ参戦すると、キャデラックの部品が夫妻へ集まるようになった。スペア・エンジンやドライブトレインを含む、シャシーも見つかった。そこでデレクは、大きな計画を立ち上げた。

妻のパットが説明する。「ル・モンストのコピーを制作したいと聞いたとき、わたしは否定しました。でも数週間後には、レブス・インスティチュートへオリジナルの写真を撮りに、再び向かっていました。神のお告げを聞いたかように」

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