【コスト度外視のスポーツカーたち】内燃機関の火が消える前に 技術の粋を味わえる3台 後編

公開 : 2021.03.06 21:45  更新 : 2021.03.10 09:35

GRヤリスの開発はセオリー破り

お次はいよいよ新顔の出番だ。GRヤリス は、大きな騒ぎを巻き起こした。出版物やウェブ上には絶賛レビューが溢れかえり、ツイッターではオーダーしたクルマを満足げに眺めるオーナーが続出した。これほど短期間にひとびとの心を捉えたクルマは、ほかにはA110くらいしか思い出せない。

それも不思議ではない。通常のヤリスは5ドアだが、このGRバージョンは3ドアだ。トヨタのエンジニアたちは、独自のプラットフォームを用いる独立したホットハッチを産み出したのだ。コストは度外視だったのだろう。

GRヤリスは、ドライビングポジションからしてエクセレント。デビューするや絶賛を勝ち取った走りを、座った途端に予感させる。
GRヤリスは、ドライビングポジションからしてエクセレント。デビューするや絶賛を勝ち取った走りを、座った途端に予感させる。    Olgun Kordal

事実、トヨタの経費はおそらく、この驚くほど複雑なホットハッチに用いられるエンジニアリングに掛かった分だけでは済まない。トヨタはまったく新しいモータースポーツ部門を立ち上げ、自社のロードカーへノウハウを反映するべく最高峰のラリーへ参戦するプログラムを始動した。

台数限定のホモロゲーションスペシャルは、開発や製造を外部サプライヤーに丸投げすることもあるが、トヨタはそうしなかった。マーケット戦略の面からみれば、じつに冒険的だ。

となれば、GRヤリスの値付けはにわかに理解できるものと思えてくる。とはいえ、全面的に補強が施された専用プラットフォームに、四輪独立サスペンションとアルミやカーボンを用いたボディパネル、世界最強の3気筒を組み合わせるとなれば、安くは上がらない。

空力面はトヨタのWRCチームと共同開発し、このクルマの開発目的にふさわしいトルセン式LSDとMTを搭載。ホットハッチについていてほしいものが、ここには揃っている。

走り出せば、GRヤリスが単なる各パーツの集合体である以上のクルマだということがよくわかる。3台の中で最も快活なキャラクターなのはA110だが、やや慎重に扱わなくてはいけないところがある。とくに、悪天候時には。ミドシップの後輪駆動だけに、発進時はやや気を使う。対するGRヤリスは、走り出しから楽しめる。

無茶をしようとしても、それを妨げるものはない。A110のほうがピュアなクルマで、中年のヨガインストラクターのようだとすれば、GRヤリスはティーンエイジャーだ。とにかく楽しむことが第一で、結果などお構いなしといったところがある。

完全無欠のエンジニアリング

どの回転域でも3気筒のワンダフルな振動と、エンジン音の強弱が味わえる。比較的大きなシングルスクロールターボを1基備えるのみなので、低回転からのレスポンスでほかを凌ぐことはないが、いったん2500rpmを超えれば、レッドラインまでスッキリ回る。

かつてスバルインプレッサWRXでみせたほど熱狂的なブーストの効きではないが、病みつきになるほど楽しいという点では肩を並べる。B級道路を遊び尽くせる速さが、このクルマにはある。

内燃エンジンを堪能できるうちに買っておくべき、いずれ劣らぬクルマたち。三者三様にして、3台ともが勝者に値するというのが、今回の結論だ。
内燃エンジンを堪能できるうちに買っておくべき、いずれ劣らぬクルマたち。三者三様にして、3台ともが勝者に値するというのが、今回の結論だ。    Olgun Kordal

こうしたラリースペシャルらしく、デフはクレバーに機能する。通常時の前後トルク配分は60:40だが、トラックモードでは50:50となる。だが、もっともうれしいのは、スポーツモードの30:70だろう。

スポーツモードを選べば、ウェットでもドライでも、みごとなほど夢中になれるクルマになる。理性を捨てて思い切りドライビングできるのだ。インプレッサや三菱ランサーエボリューションのように、スロットルベタ踏みでタイトにラインをトレースするような目覚ましいテクニックはないものの、しっかりグリップした走りは、最新のクルマの中でも稀有なレベルにある。

ほかの2台にも同じことはいえるが、コストや手間を省くこともできただろうに、そうはしなかった。この3台を際立ったものにしているのは、完全無欠のエンジニアリングだ。

たしかに、量販モデルの内装パーツを流用するような妥協点は見受けられるが、そこは目をつぶれるだろう。凝ったウインカーレバーやダイヤモンドをちりばめたスイッチでインテリアのオリジナリティを演出していても、ハンドリングが腰抜けではしょうがない。

そこで、オートカーとしてはお願いしたい。すぐにでもこれらのクルマを購入していただきたい。メーカーのコスト計算担当者の鼻を明かしてやろうではないか。

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