トヨタ・ハイラックス 詳細データテスト オンよりオフの走りで本領発揮 乗り心地には改善の余地あり

公開 : 2023.03.11 20:25

走り ★★★★★★★☆☆☆

ハイラックスのようなクルマにおいて、オンロードの加速性能という判断基準は95%くらい無視して開発されているといっていいだろう。それでも、車名にスポーツを冠し、赤いステッチの入ったシートを装備するとなれば、われわれとしては確かめずにいられない要素でもある。

運転してみると、ハイラックスは好ましいまでに率直なクルマだ。トランスミッションはマニュアル操作できる。変速に一瞬のラグはあるものの、気にするほどの遅れではない。

驚くような速さや激しさはないが、マイペースのように感じさせながらもなかなかの働きぶりを見せてくれる。
驚くような速さや激しさはないが、マイペースのように感じさせながらもなかなかの働きぶりを見せてくれる。    LUC LACEY

後輪駆動モードで、ドライのアスファルトでスタビリティコントロールを切って発進しても、4WDに電子制御デバイスを効かせたときと変わらず、0−97km/hを10秒フラットで駆け抜ける。4気筒ディーゼルは、2tちょっとのピックアップを動かすにも、ドライバーを過剰にあおるようなことはない。まるで、そうするよう求められたかのように。

中間加速もマイペースで、2.8Lエンジンはやたら回転を上げずとも実用に足る駆動力を生み出してくれる。2500rpmを超えると、楽に回っているときよりかなりノイジーで、ややガラガラいうのが気になるが、そうなってもトランスミッションの中間ギアは、とくに鋭い加速を見せてくれるわけではない。

シフトアップは歯切れが悪く、ゴムっぽいフィールで、回りはじめはきちんと噛み合っていないのではないかと思わせるギアもある。次の段に入ってからエンジン回転が落ちるのは1〜2秒後、といった具合だ。

このパワートレインはとにかくトルク命といった印象で、いかにも荷物を運んだり、道なき道を登ったり這い回ったり、もしくは牽引に使われたりするクルマのエンジンらしい。その点が重視されていて、非常に扱いやすくなっている。トランスミッションのドロっとしたつながり方も、重いトレーラーを引っ張ったり、岩だらけの急勾配をよじ登ったりするには最適なのだろう。

このクルマのトルクコンバーターには、スロットルをそれほど踏み込まないときに、エンジンの低回転での力強さを増幅するような感覚がある。はじめは引き締めている感じだが、その後は右足が要求するよりやや余計に力を解き放つのだ。

そのため、浅い川を渡っていようが、トレーラーを引いて泥道を走ろうが、すべりやすい高速道路で速度を上げようが、どんなときでもこのクルマで全開にするのはあまりおすすめできない。必ずしも、全開にすればパワートレインのもっともエキサイティングな部分を引き出せるわけではないが、本当にスポーティな物件であればこれよりスリルを感じさせてくれるはずだ。

それでも、ちょっと回転を上げてあとは機械任せにすれば、その結果として行き着く領域や、このクルマが無理なくこなしている仕事の具合に、軽い驚きを覚えるはずだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    役職:ロードテスト副編集長
    2017年よりAUTOCARでロードテストを担当。試乗するクルマは、少数生産のスポーツカーから大手メーカーの最新グローバル戦略車まで多岐にわたる。車両にテレメトリー機器を取り付け、各種性能値の測定も行う。フェラーリ296 GTBを運転してAUTOCARロードテストのラップタイムで最速記録を樹立したことが自慢。仕事以外では、8バルブのランチア・デルタ・インテグラーレ、初代フォード・フォーカスRS、初代ホンダ・インサイトなど、さまざまなクルマを所有してきた。これまで運転した中で最高のクルマは、ポルシェ911 R。扱いやすさと威圧感のなさに感服。
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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