フェラーリ250 GT SWB エアロダイナミコ(2) 深く落ち着き、華やかに煌めく サウンドとスピードの虜

公開 : 2025.04.12 17:46

スムーズなファストバック・ボディの「エアロダイナミコ」 ベースは250 GT ランチア家と親しかった初代オーナー クリーミーに6000rpmへ吹ける3.0L V12 英編集部が貴重な1台をご紹介

約3年で重ねた走行距離は4万7000km

多くのランチアフェラーリを好んだフェルディナンド・ガッタ氏だが、250 GT SWB クーペ・エアロダイナミコを特に気に入っていたことは間違いない。納車から約3年の1965年10月までに、走行距離は4万7000kmへ伸ばされている。

メンテナンスは、もっぱら自らが経営したディーラーで実施されたと考えられる。走行距離の履歴以外、彼が所有中の情報は殆ど残っていない。

フェラーリ250 GT SWB クーペ・エアロダイナミコ(1962年式/欧州仕様)
フェラーリ250 GT SWB クーペ・エアロダイナミコ(1962年式/欧州仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

1966年4月に転売され、イタリア東部アレッサンドリア州に住む人物が購入。1967年にトリノへ渡るが、その頃アメリカでフェラーリを独占販売していたルイジ・キネッティ氏を通じ、1972年に北米大陸へ輸出された。

西部や中部の愛好家のもとを転々とした250 GT エアロダイナミコは、1980年代の終わりにカリフォルニア州へ。本来のボディカラーはオレンジ・ゴールドのグリジオ・マローネ・イタルヴェルだったが、ホワイトからダーク・ブルーへ塗り替えられていた。

エンジンは、ティーポ168/61から250 GTE 2+2用のティーポ128へ換装されてもいた。その時点で、メカニカルなオーバーホールは何度も受けていたようだ。

新車時の250 GT エアロダイナミコの価格は、250 GT カリフォルニア・スパイダーより高額だったが、クラシックになっても価値は高く保たれた。1990年代にロンドン・ブルックス・オークションへ出品されるが、評価額を準備できる人物は限られた。

影で深く落ち着き、陽光で華やかに煌めく

落札したのは、レーシングドライバーのファブリツィオ・ヴィオラティ氏。2010年までコレクションの1台を構成し、彼が亡くなると2014年にボナムズ・クエイル・ロッジ・オークションへ出品。現在のオーナー、ウィリアム・ハイネッケ氏が買い取っている。

その時の落札額は、687万5000ドル。オリジナルのエンジンが探し出され、オランダのフェラーリ専門家、ストラーダ・エ・コルサ社による全面的なレストアが実施された。

フェラーリ250 GT SWB クーペ・エアロダイナミコ(1962年式/欧州仕様)
フェラーリ250 GT SWB クーペ・エアロダイナミコ(1962年式/欧州仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

グリジオ・マローネ・イタルヴェルに塗り直されたボディは、影では深く落ち着き、陽光では華やかに煌めく。光の当たる角度で、琥珀から赤褐色へ変化する。ドアを開くと、サイドシルやシートフレーム、メーターリングに散りばめられたクロームが輝く。

オーダーメイド・フェラーリらしく、メーターパネルは標準と異なる。ダッシュボードから続くセンターコンソールへ、ブルーのノブが並ぶ。パワーウインドウのスイッチも。

ステアリングホイールは、ウッドリムの3スポーク。1960年代のフェラーリとしては珍しく、助手席側にもエアコンの送風口が2つ並ぶ。ガッタは、真夏のイタリアをこれでしのいだのだろう。

シャシー中央寄りに3.0L V型12気筒エンジンが積まれ、トランスミッショントンネルは大きく、アームレストを兼ねる。随所までレザーで仕立てられ、適度な包まれ感が心地良い。優しい風合いは、ブランド品のバッグのようだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

関連テーマ

おすすめ記事