【ターゲットは新人類】CMは山下達郎&永井博!新型ダイハツ・ムーヴを3つのテーマで深掘り

公開 : 2025.06.09 11:45  更新 : 2025.06.29 23:01

疑問2:なぜ、新型ムーヴに『カスタム』は設定されなかったのか?

実は、軽乗用車に『カスタム』タイプという標準タイプとは別のバージョンを設定したのは、初代ムーヴだった。1997年の一部改良で通称『裏ムーヴ』と呼ばれたムーヴカスタムを設定。メーカー自らが内外装をドレスアップしたカスタム系は人気を集め、こののち多くのハイト系やスーパーハイト系は、標準タイプとカスタム(メーカーによって名称は異なるが)タイプをラインナップすることになる。

だが、ムーヴも初代が登場してから30年。市場を取り巻く環境は変化し、ユーザー層も変化した。初代では子育て世代が約半分、若年層が約3分の1、残りが子離れ層といったユーザー比率だったが、先代の6代目では子離れ層が半分以上を占め、若年層が約4分の1、残りが子離れ層となった。子育て世代は、より室内が広いスーパーハイト系のタントを選ぶようになった。

新型ムーヴにカスタムは設定されないが、『ダンディスポーツスタイル』などを新たに設定。
新型ムーヴにカスタムは設定されないが、『ダンディスポーツスタイル』などを新たに設定。    山本佳吾

思えば、初代ムーヴが登場した時、ダイハツの軽乗用車はミラとムーヴしかラインナップされていなかった。それゆえユーザーの多様なニーズに対応させるために、カスタムが設定された。だが今や、ダイハツの軽乗用車もタント、ムーヴキャンバス、タフト、コペンとラインナップは豊富だ。

前述のようにムーヴのユーザー年齢は上がっており、かつてほど標準タイプとカスタムタイプのユーザー層の境界が曖昧になってきた。そこで新型ムーヴでは『ワンコンセプト、ワンシルエット』と呼ばれるひとつのボディタイプに統一。今までの標準タイプよりはスポーティな印象を強めながら、カスタムタイプほど『オラオラ』ではない大人の雰囲気も感じさせ、両車の『イイトコ取り』をした、なかなか絶妙なデザインといえるだろう。

それでも、自分なりのタントを仕上げたいというユーザーのために、『ダンディスポーツスタイル』と『ノーブルシックスタイル』という、メーカーオプションとディーラーオプションを組み合わせた『アナザースタイル』を設定し、選択の幅を拡げている。

疑問3:なぜ、TV CMに『山下達郎と永井博の世界』を選んだのか?

既にTVでご覧になった方もおられるだろうが、新型タントのTV CMは、山下達郎の書き下ろし楽曲『MOVE ON』と、永井博のイラストによるノスタルジックな世界観とともに、新型ムーヴのスタイリッシュなデザインと登場感を表現したもの。

いかにも達郎サウンドの爽やかな楽曲をBGMに、青い海や空、椰子の木といった『永井博の世界』の中で走る白い新型ムーヴが眩しい。キャッチコピーは『もう一度、心が動き出す。』、ナレーションは「新型ムーヴ、誕生」だけ。まさに1980年代っぽいCMなのだが、これには理由があった。

永井博が描いたイラスト。『MOVE ON』のタイトルで山下達郎がCM用に楽曲を書き下ろした。
永井博が描いたイラスト。『MOVE ON』のタイトルで山下達郎がCM用に楽曲を書き下ろした。    山本佳吾

実は新型ムーヴのターゲット層は『新人類』なのだという。『新人類』、久しぶりに聞いた言葉だが、マーケティングにおけるセグメンテーションでは、1960年代生まれの世代を総称している。そんな新人類も、2025年の現在では50代後半から60代前半のシニア層。

つまり、子育ても終わりエンプティネスター(巣が空になった、という意味)となった新人類に向けて新型タントをアピールするために、彼らの若き時代を彷彿とさせる『達郎&永井博』の世界でCM展開しているというわけだ。

なお、このTV CMは今のところ15秒版の1バージョンのみで、30秒版も別バージョンもない。最近のTV CMは15秒版が主流になっていることにもよるらしい。また新バージョンや続編に関しては、現段階ではノーコメントとされていたが、今後に期待したい。

また、達郎の書き下ろし楽曲も現在のところCMで使われている部分を含めた30秒くらいのフレーズで、完成はしていないらしい。だが、今までの彼の作品を考えれば、次に作成されるアルバムには、フルバージョンとなって収録されるに違いない。

新人類に向けたダイハツ 新型ムーヴ、クルマだけでなくTV CMでも話題を集めそうだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    篠原政明

    Masaaki Shinohara

    1958年生まれ。某自動車雑誌出版社をめでたく? 卒業し、フリーランスのライター&エディターに。この業界に永くいるおかげで、現在は消滅したものを含めて、日本に導入されている全ブランドのクルマに乗ってきた……はず。クルマ以外の乗りものもけっこう好きで、飛行機や鉄道、さらには軍事モノにも興味があるらしい。RJC会員。
  • 撮影

    山本佳吾

    Keigo Yamamoto

    1975年大阪生まれ。阪神タイガースと鉄道とラリーが大好物。ちょっとだけ長い大学生活を経てフリーターに。日本初開催のWRC観戦をきっかけにカメラマンとなる。ここ数年はERCや欧州の国内選手権にまで手を出してしまい収拾がつかない模様。ラリー取材ついでの海外乗り鉄旅がもっぱらの楽しみ。格安航空券を見つけることが得意だが飛行機は苦手。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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