フィアット508S バリラ・スパイダー「コルサ」(1) ギア社ボディでクラス圧倒の実力
公開 : 2025.09.20 17:45
508A バリラがベースの小さなスパイダー 戦前はクラス圧倒の実力 1040ccへ拡大で最高出力46ps 驚くほど小さいボディに不自然なペダル 楽しい走り 希少なフィアットをUK編集部がご紹介
508A バリラがベースの小さなスパイダー
フィアットは、今も昔も魅力的なコンパクトカーが得意分野。イタリア以外では馴染みが薄いかもしれないが、小柄なロードスターも多数手がけてきた。850スパイダーに1200や1600のカブリオレ、124、X1/9、バルケッタなど、個性派揃いでもある。
今回ご紹介する508Sも、小さなフィアット。ベースは1932年のイタリア・ミラノ・モーターショーで発表された、508A バリラという名のサルーン。エンジンは995cc 4気筒サイドバルブで、後にオーバーヘッドバルブ化され22psを発揮した。

トランスミッションは当初3速だったが、4速へ改良。ブレーキは油圧式で、電装系は12Vと優れていた。フィアットは、この技術を流用。優雅な雰囲気のスポーツ・スパイダーと、サイクルフェンダーを与えたスパイダー・コルサを、1933年に発売する。
スタイリングを手掛けたのは、カロッツエリアのギア社。優しく弧を描くテールと、中央に突き立ったフィンは、アルファ・ロメオ6C-1750 グランスポーツを想起させた。
戦前はクラス圧倒の実力 ル・マンでも活躍
戦前のフィアットは、1927年にモータースポーツの一線から退いていた。だが508S バリラ・スパイダー・コルサは、1930年代にクラスを圧倒する実力を備えていた。
特に有名なのは、1934年のコッパ・ドーロ・デル・リットリオだろう。5月下旬から6月上旬の8日間に、イタリアの公道を突っ走る耐久レースで、総走行距離は5671km。508S スパイダー・コルサは優勝し、「コッパ・ドーロ」という愛称を得るに至った。

ミッレミリアやタルガ・フローリオはもちろん、隣国のル・マン24時間レースやフランス・グランプリでも活躍。高い評価を集め、フランスのシムカによってライセンス生産されてもいる。
イタリアから移住したアメデ・ゴルディーニ氏は、508S用のアルミニウム製ヘッドを開発し販売。そのチューニング技術は注目を集め、シムカ・コンペティション部門の責任者へ招かれる。その後、ルノーと提携しゴルディーニ仕様が誕生した。
ボディは英国のコーチビルダー
508S スパイダー・コルサの生産数は、正確には不明。シムカとドイツのNSUによる生産を含めても、500台に達しない、というのが一般的な理解のようだ。
今回の1台は右ハンドル・シャシーの後期型で、オーバーヘッドバルブ・エンジン。グレートブリテン島へ上陸した、48台の内の1台だ。ボディは英国のコーチビルダーが仕立てており、ギア社のスタイルを継承しつつ、テールフィンは僅かに背が高い。

このスパイダーを購入したのは、クリストファー・メトカーフ氏、通称「ディッキー」。彼の名義で1935年にナンバー登録され、各地のレースを戦っている。ただし、当時の英国では知名度が低く、売れ残った12台はイタリアへ戻されている。































































































































































