巨大タッチスクリーンがなくても「高級感」ある内装は作れる 英国記者の視点

公開 : 2025.09.22 17:45

運転席に座ったとき、人はどのようなところで「高級感」を感じるのでしょうか。今回は、30年前と比べて格段に高くなったというクルマの「知覚品質」について語ります。AUTOCAR英国記者コラムです。

格段に高くなった「知覚品質」の話

筆者(英国人)のような自動車雑誌編集者は、過去20年ほどの間、「知覚品質(perceived quality)」と呼ばれるものについて多くの誌面を費やして書いてきた。

知覚品質は、あまり馴染みのない、謎めいた概念に思えるかもしれない。読者の中には、雑誌が勝手に作り出したものだと考える人もいれば、過剰に重要視しているだけだと考える人もいる。そこで今回は、21世紀の自動車産業の発展に大きな影響を与えたこの知覚品質について簡潔に説明しよう。

見た目や手触り、クリック音などが「高級感」の演出に重要な役割を担っています。
見た目や手触り、クリック音などが「高級感」の演出に重要な役割を担っています。

よく耳にする製造品質とは混同してはいけない。自動車業界関係者が「品質(quality)」について言及する場合、通常は製造品質のことを指す。つまり、ミスなく正確に完成車を作る生産ラインの能力である。

ボディパネルの合わせ目がぴったりと合うか、ドアの気密性は高いか、塗装の仕上がりはどうか、金曜午後に組み立てた車両と火曜午前の車両が同じ品質か、といったことだ。知覚品質は、これとは異なるものである。

確かに、こうした要素はクルマの品質を示す有意義な指標ではあるが、多少なりとも観察力が必要となる。通常は目と耳を使って、能動的に探らなければならない。それに対して知覚品質とは、まさに「気付いてもらうために存在する」類のものだ。

クルマのインテリアに高級感を持たせ、それを目的として装備や機能を載せていくという考え方は、1990年代初頭にドイツメーカーによって広まった。このことは、ほとんどの記者・編集者が同意してくれるだろう。

AUTOCARの過去の記事を振り返ってみると、この概念が初めて誌面に登場したのは1992年7月のB4型アウディ80アバントの試乗記だった。時期的にはぴったりだ。

アウディは当時、品質を高めることで新たな地位を築こうと躍起になっていた。試乗したスティーブ・サトクリフ記者は、80のキャビンについて「触り心地が良く、見た目も良く、精巧に仕上げられている」と書いている。

しかし、この傾向は高級車や上級グレードに限ったことではなかった。例えば、1997年に登場した4代目フォルクスワーゲン・ゴルフは、知覚品質において大変革をもたらした。

フォルクスワーゲンのフェルディナント・ピエヒ会長が開発車両に初めて乗り込んだ時、運転席を一番後ろまでスライドさせ、足元を見て即座に「フロントシートの取り付け部分を再設計し、レールが見えないようにせよ」と要求したという逸話が残っている。

今や時代は一変したと言えるだろう。

多くのメーカーは、かつて過剰設計の灰皿やスイス時計のボタンのようなクリック音のするエアコン操作スイッチに注ぎ込んでいた予算を、今では巨大化するデジタルスクリーンに費やしている。このスクリーンの存在こそ、物理的な操作スイッチを減らすことにもつながっている。

手触りなどの触覚的な魅力は、アンビエントライトに取って代わられた。一部のメーカーでは、本当に高級感のある(と感じられる)インテリアを見つけることが難しい場合もある。

しかし、すべてのメーカーが同じ方向を向いているわけではない。現代で最も高価で高級感のあるインテリアは、もはやドイツ製ではなく、デジタル技術の採用に慎重だった市場で作られている。レクサスジェネシスマツダが現在、そのリーダー的存在と言えるだろう。

知覚品質が業界にもたらした最大の恩恵は、フォードからフェラーリに至るまで、あらゆるメーカーの仕上げと素材品質の基準を底上げしたことだ。

30年前は、本来あるべきでない場所にチープな素材が溢れていた。今日では、いわゆるベースラインとなる知覚品質は格段に高くなっている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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