【現役デザイナーの眼:フェラーリ849テスタロッサ】全体として一体感に欠けるも、レトロと現代性を融合させた新たな試み

公開 : 2025.09.25 12:05

デザイン全体の評価と課題

このように『テスタロッサ』という名を冠しながらも、849テスタロッサのデザインは過去の複数モデルからインスピレーションを受けた混合的な構成になっていますが、そのせいかやや複雑な印象もあります。

一方で1984年に登場したテスタロッサは、非常に明快で特徴的なデザインでした。プランビューで前から後ろにつれてだんだん幅が広くなるような台形のシルエットは、当時でも全く見られないくらいオリジナリティが高いもので、後に他のスーパースポーツカーにも影響を与えたデザインでした。

各種要件が厳しい中、レトロと現代性を融合させた新たな試みが感じられる。
各種要件が厳しい中、レトロと現代性を融合させた新たな試みが感じられる。    フェラーリ・ジャパン

クルマに限らずですが、デザインの魅力の本質は『明快さ』にあるとよく言われ、基本的なシルエットや立体構成が一目で意図が伝わることが優れたデザインの条件です。しかし今回の849テスタロッサを眺めるとどうしても部分ごとに処理された印象が残り、全体としての一体感に欠ける面があります。

例えば、サイドのエアインテークに配された縦の黒帯がなくなればデザインの連続性や統一感はさらに高まるかもなど、実車を見ながら色々考えてしまいました。

とはいえ、各種要件が厳しいながらもレトロと現代性を融合させた新たな試みであることは間違いなく、しかもそれを『フェラーリ』という頂点のブランドが挑戦している点にこそ、大きな意味と存在感があると言えるでしょう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

現役デザイナーの眼の前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事