儚く散ったGMの夢!1997年に日本上陸もしたアメリカ製小型車『サターン』【第5水曜日の男、遠藤イヅルの令和的ヤングタイマー列伝:第5回】

公開 : 2025.10.29 17:05

こんにちは。クルマを主体としたイラストレーター兼ライターの遠藤イヅルです。年に数回だけやってくる『第5水曜日』に、『今見直したい』ヤングタイマー世代のクルマについて記す当連載。第5回は、『サターン』をお送りします。

日本車に対抗すべく生まれた小型車ブランド

『サターン』と聞いて、「わ、そんなのあったね」という人と、「なにそれ?」という人がいるのではないでしょうか。話題を呼びつつも、わずか4年で日本から撤退したからです。えっ、たった4年!?

オイルショック以降、アメリカの自動車市場では、特にスモール、サブコンパクト、コンパクトといった小型車のジャンル(小型車とはいえ日本では1.5〜2リッタークラス)で高品質、低燃費かつ価格も安い日本車が席巻していました。

『ジト目』のようなグリルレスマスクが個性的だったサターン(2代目Sシリーズ、SL)。
『ジト目』のようなグリルレスマスクが個性的だったサターン(2代目Sシリーズ、SL)。    サターン

そこで1980年代前半、アメリカ・ビッグ3の一角ゼネラルモーターズ(以下GM)はそれに対抗すべく、GM傘下だったオペルをベースに世界戦略車の『Tカー』(日本ではジェミニ)、『Jカー』(同アスカ)を発売。

しかしそれでも日本車には太刀打ちできず、1980年代後半からは、トヨタとの合弁会社『NUMMI』でカローラを『シボレー・ノヴァ』と生産して売ったり、『ジオ』ブランドで日本車を扱うなどしました。

とはいえGMは自社開発の小型車を諦めておらず、1985年に『サターン』を設立。生産のみならず開発から販売も一貫して行う準独立ブランドとされ、デトロイトから800kmも離れたテネシー州スプリングヒルに新工場を建設。

値引きなし、誰でも行きやすいディーラー、スーツを着ないディーラーマン、納車セレモニーなど、従来の自動車メーカーとは一線を画す戦略が盛り込まれました。生産には、NUMMIで培ったいわゆる『かんばん方式』も取り入れられたと言われています。

独自性高い設計を誇ったサターンSシリーズ

アメリカでの販売は好調に推移し、日本には1997年に上陸。2代目Sシリーズが登場して7年経っての上陸でしたが、日本市場には『サターン・セダン』、同『ワゴン』、同『クーペ』と称する3車種を導入しました。なお正式な車名は『Sシリーズ』のSL、SW、SCで、日本のカタログでも諸元表などにはこの名が記載されていました。

ちなみに日本版サターンは、1996年デビューの2代目Sシリーズで、本国には1985年から1996年まで売られていた初代が存在します。このことは、日本ではほとんど知られていないでしょう。

日本仕様のカタログは表紙、裏表紙含め41ページと分厚く、日本に向けたサターンの本気度が伺えます。
日本仕様のカタログは表紙、裏表紙含め41ページと分厚く、日本に向けたサターンの本気度が伺えます。    サターン

GMでは同一車型をブランドによって使い分けていましたが(GMに限らずビッグ3ではよくある手法です)、Sシリーズは他ブランドへの流用がなかったため、プラットフォームもサターン専用。サターンが『スペースフレーム』と呼んだ堅牢なボディの上に、凹んでも復元する樹脂製のポリマーパネルを貼るという構造を採用していました。

外観は初代、2代目とも、グリルレスで薄く幅広いヘッドライトが特徴です。2代目ではボディ全体が洗練されましたが、内装を始め基本的には初代のキャリーオーバーでした。

駆動方式はFF、エンジンは1.9L直4OHCとDOHCのみで、このエンジンもサターン・ブランドのみで使われました。2代目の全長は3車種とも4.5m台、全幅1.7m以下に抑えられ、日本では5ナンバー車となるのもポイントでした。

記事に関わった人々

  • 執筆

    遠藤イヅル

    Izuru Endo

    1971年生まれ。自動車・鉄道系イラストレーター兼ライター。雑誌、WEB媒体でイラストや記事の連載を多く持つ。コピックマーカーで描くアナログイラストを得意とする。実用車や商用車を好み、希少性が高い車種を乗り継ぐ。現在の所有は1987年式日産VWサンタナ、1985年式日産サニーカリフォルニア、2013年式ルノー・ルーテシア。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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