手のかかる最高の高級車 ロールス・ロイス・ファントムIII 9年を費やしレストア 後編

公開 : 2023.08.26 17:45

豪華さと上質さを追求したファントムIII。メカニズムが複雑で維持が難しいとされる戦前モデルを、英国編集部がご紹介します。

9年間・19万ポンドを費やしレストア

今回ご登場願ったブラックのロールス・ロイスファントムIIIは、1937年式。英国のコーチビルダー、Jガーニー・ナッティング社によるツーリングリムジン・ボディが架装されている。

当時24歳だったチーフデザイナー、ジョン・ブラッチリー氏が描き出したスタイリングはハンサム。巨大なルーカス社製P100ヘッドライトが、威厳を漂わせる。フェンダーやルーフラインが優雅にカーブを描き、全長5359mmという大きさを感じさせない。

ロールス・ロイス・ファントムIII(1936〜1939年/英国仕様)
ロールス・ロイス・ファントムIII(1936〜1939年/英国仕様)

カーディーラーのHRオーウェン社を通じてオーダーされ、1937年5月にグレートブリテン島の中部、ダービーでナンバーを取得。記録によれば、6月にスコットランドのロナルド・シャープ中佐へ販売されている。

その後の空白期間を挟み、1990年代初頭にアメリカ・バージニア州で傷んだ状態で発見。オリジナルのV型12気筒エンジンは、戦後の5.7L直列8気筒、B80型ユニットへ置換されていたという。

1995年から、ボブ・ピーターソン氏とロドニー・ティンプソン氏がレストアへ着手。
9年間に19万ポンドという金額を費やし、見事な状態が蘇った。ちなみに、ロドニーの妻で女優のペネロープ・キース氏は、Jガーニー・ナッティング社の親族に当たる。

レストアは2003年に終了し、スタイリングを手掛けたブラッチリーへ披露された。美しく復元されたボディを目にし、大いに喜んでいたという。

長い眠りから目覚めたシャシー番号3-CP-56のファントムIIIは、究極のロールス・ロイスを体現した1台。戦前の同社を理解するのに、最適なモデルといえるだろう。

音振的に判別できないほど静かなV12

黒く輝くV型12気筒エンジンを始動させた状態でボンネットを開いても、本当にガソリンが燃焼されているのかどうか、音振的に判別はほぼ不可能。極めて粛々とアイドリングする。

オーナーが手を汚すことはなかったと思うが、念のため、ロールス・ロイスはプラグ交換の専用工具を用意していた。下に潜ってオイルサンプのプラグを抜かずとも、古いオイルを抜き取ることも可能としていた。

ロールス・ロイス・ファントムIII(1936〜1939年/英国仕様)
ロールス・ロイス・ファントムIII(1936〜1939年/英国仕様)

リアヒンジのフロントドアを開き、運転席へ腰を下ろす。シートは滑らかなブルー・レザー張り。シフトレバーが右側に位置し、小さなハンドブレーキ・レバーが見える。

ボンネットは、大きなヘッドライトへ向けて幅が狭まる。サーモスタット・シャッターを内蔵する大きなラジエーターの頂上部で、女神、スピリット・オブ・エクスタシーがひざまずいている。

インテリアはウォールナット材で飾られ、ドアパネルなどの造形は控えめだ。ダッシュボードは、時速110マイル(約177km/h)まで振られたスピードメーターが主役。電流や燃料、油圧などの補助メーターが整列している。

マップライトなど、小さなスイッチ類が珍しい。スタートとランと記されたレバーは、冷間時用のチョークを意味する。

2基用意された燃料ポンプ用に、セレクタースイッチが備わる。ダッシュボード中央のスイッチは、センターピラーから横に飛び出すセマフォー(ウインカー)用。クラクションにも、ハイとローの2段階がある。

記事に関わった人々

  • マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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