「知るほど感慨深い」電動ロールス・ロイス 最新スペクターへ試乗 創業者の聖地を巡礼(2)

公開 : 2023.12.18 19:06

ロールス・ロイス初のEV、スペクター 極めて速く快適で豪華なグランドツアラー 英国編集部が、電気技術者だった創業者の足跡を辿る小旅行へ

1:35 ダービーからリバプールを目指す

約120年前、フレデリック・ヘンリー・ロイス氏は、グレートブリテン島中部へ位置するダービーシャー州ダービーの工場で組み上がった試作車を、技術者と一般道で試験走行させていた。その当時、この付近のカフェへ頻繁に訪れていたに違いない。

筆者も、コスタ・コーヒーで遅めの昼食をいただく。ロールス・ロイス・スペクターでの小旅行の最終目的地は、西部のマージーサイド州リバプール。途中、マンチェスターのハルム・パークを経由するつもりだ。

ロールス・ロイス・スペクター(英国仕様)
ロールス・ロイス・スペクター(英国仕様)

ロンドンから最短距離でリバプールを目指していれば、充電せずに走破できたはず。しかし寄り道したことで、102kWhの駆動用バッテリーでは僅かに足りない距離へ伸びてしまった。BPプラス社が提供する、電圧800Vの充電ステーションへ立ち寄る。

スペクターが搭載する電動アーキテクチャは、400V。DCの急速充電器なら、最大で約200kWの速さで満たせる。休憩している間に、航続距離は160km回復。高速道路のM6号線へ入り、ダービーから北西へ進む。

15:00 ブランドの起源があった街

約1時間で、マンチェスター・ハルムへ。ここには、ロイスが初めて自らの名を冠した電気機械の製造メーカー、FHロイス&カンパニー社の拠点があった。

現在はグレートブリテン島の南部、チチェスターの街へ拠点を置くロールス・ロイス・カーズだが、ブランドの歴史の1ページとして、この場所へ触れるつもりはないようだ。それでも、マンチェスターと縁があったことは事実だ。

FHロイス&カンパニー社の拠点があった、マンチェスター・ハルムのハルム・パーク
FHロイス&カンパニー社の拠点があった、マンチェスター・ハルムのハルム・パーク

1884年にロイスはここで事業を始め、モーターやダイナモ、ウインチ、クレーンなど多様な機械を製造し、電気の需要拡大とともに急成長。この土地で、最初のロールス・ロイスも誕生した。初期の40/50シルバーゴーストも、ハルムで作られた。

しかし、20世紀に入ると安価な輸入製品が英国で普及。ロイスは事業を再考することに迫られ、自動車製造へ本格的にシフトすることになった。

FHロイス&カンパニー社の電気機械は、すべてロイス自身が設計していたという。モーターやダイナモなど回転する部品は、製造品質が高く完璧にバランスが取れていないと、滑らかに機能しない。

その経験から、自ら内燃エンジンの設計にも関わった。不安定さと振動を排除し、冷却と潤滑へ配慮し、堅牢性や信頼性には細心の注意が払われた。

現在、その場所はハルム・パークとして整備されている。緑豊かな、静かな公園だ。散策したり、木陰で読書するのに望ましい場所へ思えた。傍らには、ロイスの功績を記したプレートと、象徴的な「パルテノングリル」を模した彫刻が飾られている。

英国を代表する偉大なブランドは、ここから始まったのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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