ほぼ完璧なバランスと狙い通りのスタンス

911 ダカールは、より柔軟。ドライバーの意志に任されている。その正確な反応は、ポルシェという血統書に相応しい。それでも、秀抜のウラカン・ステラートを上回るほどの喜びかと聞かれると、即答は難しいだろう。

ドライバーズカーとしての評価軸は、喜びだけではない。思い通りに操れる充足感も、大切な指標の1つ。BMW M2 クーペがコーナーで体験させる、ほぼ完璧なバランスと狙い通りのスタンスは、間違いなく満ち足りた気持ちにしてくれる。

ホワイトのBMW M3 CSと、レッドのBMW M2 クーペ
ホワイトのBMW M3 CSと、レッドのBMW M2 クーペ

現在のBMW Mモデルで最も小柄ではあるが、最高出力は460psもある。ジュニアという表現が相応しいとは思えないものの、もう1台のBMW、M3 CSより扱いやすく、攻め込みやすい。

対するM3 CSは、大きく硬く、望まない瞬間でオーバーステアへ振られることもしばしば。濡れた路面では、アンダーステアへ転じることも。同時に、M2 クーペより熟成された操縦性でリカバリーしやすい。

サスペンションは見事。ボディを軽く感じさせる。

2台のBMWの評価は、審査員で別れた。ディスデイルはM3 CS推し。「サーキットでは、正確に速さを追求することもできますし、ドリフトマシンのように奔放に振り回すこともできますね」。M2は、締まりが弱いと印象を比較する。

M2 クーペ推しのフランケルは、「Mモデルとしての正解。突出した特長はないかもしれませんが、指摘するような弱点もありません」。と振り返る。M3 CSほどのドラマチックさはないとしても、充足感は高いと反論する。

個性としての違い 審査員の好みも異なる

プライヤーは、M3 CSを高く評価する。「M2よりベター。ドライでは、先代のM4 GTS並みに優れていると想像できます。ただし、全員がそう感じるとは思いませんが」

「あらゆる場面でのパフォーマンスを比較すれば、恐らくM2の方が完成度は高いと思いますよ。期待値よりグランドツアラー寄りかもしれませんが、より優れるでしょう」。と、控えめ(?)にわたし、リチャード・レーンも意見した。

BMW M2 クーペ(英国仕様)
BMW M2 クーペ(英国仕様)

バプラートも印象は異なる。「自分は、M3 CSの方が遥かに整っているように感じました」。M2 クーペの限界領域での特性は、さほど漸進的ではなかったと話す。M3 CSは、フロントアクスルを完璧に活用できている、とも付け加える。

時間をかけて意見を交わしても、平行線だろう。個性としての違いはあり、審査員の好みも異なる。2台のBMWが、魅了する走りを披露したことは間違いない。

BMWらしく、アクセルペダルの加減でコーナリングラインを調整でき、高速でアングルシー・サーキットを周回できたことは事実だ。M3 CSの方が、動的能力では洗練されている。躍動的な特性も宿す。

M2 クーペは、動力性能や正確性でM3 CSには届いていない。しかし懐が深く、ハードにプッシュせずとも、BMWらしい操縦性を楽しめる。加えて6速MTでもあり、しっかり身体を支えるバケットシートへ身を委ね、両手両足で操る楽しさへ浸れる。

どちらかがベスト3へ勝ち残る可能性は、充分にある。特に、ゴールドのホイールを履いたM3 CSは。

この続きは、BBDC 2023(5)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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