BYDシール 詳細データテスト 低速の快適性は要改善 高速域の長距離移動は快適 ハンドリング良好

公開 : 2024.02.03 20:25  更新 : 2024.02.12 17:55

意匠と技術 ★★★★★★★★☆☆

BYDのデザインスタジオは2016年から、アウディアルファ・ロメオで辣腕を振るったウォルフガング・エッガーが率いている。そのため、最近のBYDのデザイン言語は、いかにもドイツ人のベテランが手掛けたと思わせる、ややもすれば当たり障りなく感じさえしそうなまとまりがある。

スムースで公称Cd値が0.22と空力に優れたセダンボディは、テスラからモデル3の顧客を奪いそうな部分は少ないものの、ディテールは精密で、どうにかして好き勝手をほとんど実現している。これまで以上に海の生き物の名を持つクルマらしい要素も見られ前輪ホイールハウス後方とサイドシル後端にはエラ、Cピラーには鱗を思わせる造形がある。もっとも、哺乳類であるアザラシにはどちらもないので、ヒレとなった手足をイメージしたのかもしれない。そうなると、デイタイムライトがヒゲにも見えてくる。

ホイールサイズは両仕様とも19インチで、スポークの隙間には空力カバーが備わる。タイヤはコンチネンタルで、さほど低扁平ではない前後同サイズだ。オプションは多くない。そのひとつが、ホイールハウス後方とサイドシルのギルの仕上げ。テスト車はブラックギルトリムだった。
ホイールサイズは両仕様とも19インチで、スポークの隙間には空力カバーが備わる。タイヤはコンチネンタルで、さほど低扁平ではない前後同サイズだ。オプションは多くない。そのひとつが、ホイールハウス後方とサイドシルのギルの仕上げ。テスト車はブラックギルトリムだった。    JACK HARRISON

BYD独自開発のe-プラットフォーム3.0は、基本構造の設計こそ格下のドルフィンアット3と共通だが、駆動力のメインはリアへ移る。中央は独自のブレードバッテリーで埋められる。ほかのメーカーと異なり、バッテリーまで自社開発・生産を行う。電池メーカーが母体となっただけあって、一般的なOEMのニッケルマンガンコバルトよりレアアース使用量を減らしたLFPことリン酸鉄リチウムを採用する。

そのほかにもメリットはある。まず、ダメージを受けた際には、ほかの方式より熱暴走するリスクが低い。そして寿命が長いとされていて、フル充放電を繰り返してもその長寿命に影響しないと言う。

いっぽう、LFPはエネルギー密度の低さがデメリットで、容量を求めると大型化してしまう。充電速度も遅い。BYDではこれを部分的に修正。エネルギー密度については、バッテリーパックの構造を変更することで是正した。

小さなセルの円柱や角柱でモジュール内を埋め、それを並べるのが従来のやりかただ。そうではなく、いきなりケース長と変わらないような長い板状の、ブレードバッテリーの名の由来ともなったセルをパックへ直に設置した。スペースとウェイトをセーブして、LFPには必須ではない液冷システムを組み合わせているのだ。

懸命な判断だが、その文重量はかさんだ。公称値は2055kg、テスト車の実測値は2116kgだが、いずれにせよ、最近計測してモデル3のデュアルモーター仕様の1846kgより重いのだ。

シールのバッテリーパックは、車体構造に統合され、ねじり剛性を高める。公称値の4万500Nm/degは、自動車業界ではあまり聞かないほど高い数値。計測の仕方など不明点もあるが、かなり高剛性だと考えていいだろう。

仕様はふたつ。シングルモーター仕様のデザインは、リアに永久磁石同期式を積み、312psを発生。フロントにコンパクトな非同期モーターを加えたエクセレンスAWDは530psとなる。

どちらも、サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リアがマルチリンク。エクセレンスには、メルセデスやヴォグゾールが採用する周波数選択肢のダンパーも装備される。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 執筆

    イリヤ・バプラート

    Illya Verpraet

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Koichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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