可能性を潰したブリティッシュ・レイランド ウェッジシェイプのADO71(2) 中年が乗るクルマ?
公開 : 2025.03.09 17:46
世界で最も乗り心地のいいクルマ
アンバサダーの英国価格は、6234ポンド。助手席側のドラミラーやティンテッドガラス、折りたたみできるリアのアームレストなど、装備は充実していた。6気筒エンジンは選べず、インテリアはプリンセスより安っぽく見えたが。
自動車雑誌のカーは、「非常に有能。世界で最も乗り心地のいいクルマの1台です」。と高く評価。AUTOCARも、価格に見合った優れたクルマだとまとめている。これを読み、初代アウディ100からの乗り換えを考えた人もいたかもしれない。

それでも、衰退の勢いは止まらなかった。アンバサダーには左ハンドル仕様がなく、輸出されたのはアイルランドのみ。1983年11月にアンバサダーの生産は止まり、販売は1984年まで続いたものの、4万3427台で幕切れとなった。
オパリン・グリーンのアンバサダー 1.7 HLを、ジョン・キングスフォード氏が購入したのは2023年と最近だ。「このアンバサダーへ惹かれた理由の1つは、グリーンのボディカラーと、タンのインテリアというコーディネートでした」
「また、珍しい1オーナー車でもあったんです。テールゲートと、折り畳めるリアシートのおかげで、非常に大きな荷室空間を生み出せます。信じられないほど実用的で、多目的なんですよ。自分が所有するクラシックカーの中では、1番経済的かもしれません」
可能性を無駄にしたブリティッシュ・レイランド
キングスフォードは、プリンセスよりアンバサダーの方が動的には優れると話す。ステアリングの反応が良く、乗り心地は落ち着いていて、遮音性も高いそうだ。
「エンジンは1.7Lなのでスピードは出ませんが、パワー不足を感じることはないですね。シートの調整域が広く、長距離移動も快適です。1980年代らしい内装のベージュが、車内を明るく開放的に感じさせます」

このクルマに対する市民の反応も、多様で面白いという。宇宙船を目撃したように見つめる人もいれば、祖父が所有していたり、社用車として乗っていたという理由で、懐かしむ人も多いとか。
「驚いたことに、否定的な思い出を話す人はいませんね。皆さん、素敵な思い出ばかり。状態の良さには、驚いてくれます。こんな姿で、よく残っていたね、と」。キングスフォードが微笑む。
往年の18-22シリーズのテレビCMを見ると、「これはミニ以来、最大のニュースです!」。と、俳優のパトリック・アランが感情豊かに訴えている。未来のことなど、まるで知らないから当然だろう。
確かに、ブリティッシュ・レイランドは、大きな可能性を秘めたクルマを生み出した。だが、ここまで可能性を無駄にできたのも、同社だけだったといえるかもしれない。
筆者が4台からお気に入りを選ぶなら。ゴースト・ライトと呼ばれた、ほんのり灯るエンブレムを付けたウーズレーになるだろう。多くの長所と短所が1つにまとまった、ADO71を象徴する1台だから。
協力:マーク・アレンデン氏、サイモン・ヘイズ氏、ジョン・キングスフォード氏、アンドリュー・マクアダム氏、レイランド・プリンセス&アンバサダー・エンスージャスト・クラブ、BMWミニ・プラント・オックスフォード


































































































































