可能性を潰したブリティッシュ・レイランド ウェッジシェイプのADO71(2) 中年が乗るクルマ?

公開 : 2025.03.09 17:46

世界で最も乗り心地のいいクルマ

アンバサダーの英国価格は、6234ポンド。助手席側のドラミラーやティンテッドガラス、折りたたみできるリアのアームレストなど、装備は充実していた。6気筒エンジンは選べず、インテリアはプリンセスより安っぽく見えたが。

自動車雑誌のカーは、「非常に有能。世界で最も乗り心地のいいクルマの1台です」。と高く評価。AUTOCARも、価格に見合った優れたクルマだとまとめている。これを読み、初代アウディ100からの乗り換えを考えた人もいたかもしれない。

オースチン・アンバサダー 1.7 HL(1982〜1984年/英国仕様)
オースチン・アンバサダー 1.7 HL(1982〜1984年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

それでも、衰退の勢いは止まらなかった。アンバサダーには左ハンドル仕様がなく、輸出されたのはアイルランドのみ。1983年11月にアンバサダーの生産は止まり、販売は1984年まで続いたものの、4万3427台で幕切れとなった。

オパリン・グリーンのアンバサダー 1.7 HLを、ジョン・キングスフォード氏が購入したのは2023年と最近だ。「このアンバサダーへ惹かれた理由の1つは、グリーンのボディカラーと、タンのインテリアというコーディネートでした」

「また、珍しい1オーナー車でもあったんです。テールゲートと、折り畳めるリアシートのおかげで、非常に大きな荷室空間を生み出せます。信じられないほど実用的で、多目的なんですよ。自分が所有するクラシックカーの中では、1番経済的かもしれません」

可能性を無駄にしたブリティッシュ・レイランド

キングスフォードは、プリンセスよりアンバサダーの方が動的には優れると話す。ステアリングの反応が良く、乗り心地は落ち着いていて、遮音性も高いそうだ。

「エンジンは1.7Lなのでスピードは出ませんが、パワー不足を感じることはないですね。シートの調整域が広く、長距離移動も快適です。1980年代らしい内装のベージュが、車内を明るく開放的に感じさせます」

オースチン・アンバサダー 1.7 HL(1982〜1984年/英国仕様)
オースチン・アンバサダー 1.7 HL(1982〜1984年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

このクルマに対する市民の反応も、多様で面白いという。宇宙船を目撃したように見つめる人もいれば、祖父が所有していたり、社用車として乗っていたという理由で、懐かしむ人も多いとか。

「驚いたことに、否定的な思い出を話す人はいませんね。皆さん、素敵な思い出ばかり。状態の良さには、驚いてくれます。こんな姿で、よく残っていたね、と」。キングスフォードが微笑む。

往年の18-22シリーズのテレビCMを見ると、「これはミニ以来、最大のニュースです!」。と、俳優のパトリック・アランが感情豊かに訴えている。未来のことなど、まるで知らないから当然だろう。

確かに、ブリティッシュ・レイランドは、大きな可能性を秘めたクルマを生み出した。だが、ここまで可能性を無駄にできたのも、同社だけだったといえるかもしれない。

筆者が4台からお気に入りを選ぶなら。ゴースト・ライトと呼ばれた、ほんのり灯るエンブレムを付けたウーズレーになるだろう。多くの長所と短所が1つにまとまった、ADO71を象徴する1台だから。

協力:マーク・アレンデン氏、サイモン・ヘイズ氏、ジョン・キングスフォード氏、アンドリュー・マクアダム氏、レイランド・プリンセス&アンバサダー・エンスージャスト・クラブBMWミニ・プラント・オックスフォード

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・ロバーツ

    Andrew Roberts

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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