英エルズミア・ポート工場の復活を支えた救世主 ダイアン・ミラー氏:編集長賞【AUTOCARアワード2025】

公開 : 2025.08.01 11:05

2024年後半から2025年前半で、各カテゴリーのベストを称えるAUTOCARアワード。最高経営責任者からデザイナー、F1チームまで、各部門賞に輝いた人物や組織とは? UK編集部が4人+1チームを選出。

エルズミア・ポートの救世主

ステランティスの英国生産責任者であり、『AUTOCARアワード2025』の編集長賞を受賞したダイアン・ミラー氏は、大人になってからずっとクルマを愛してきたという。そして、その情熱が芽生えた瞬間のことを、今も鮮明に覚えている。

ミラー氏は、大学院を卒業したあと、エセックス州ダゲナムにある当時のフォードフィエスタ工場へ就職してから、以後30年以上にわたり、フォード、アストン マーティン、GM、ステランティスなど、世界中の自動車メーカーで重要な役割を歴任してきた。

『AUTOCARアワード2025』の編集長賞を受賞したステランティスのダイアン・ミラー氏。
『AUTOCARアワード2025』の編集長賞を受賞したステランティスのダイアン・ミラー氏。    AUTOCAR

彼女は決断力がありながらも謙虚で、自分自身の成功の秘訣を明かすことは少ない。ただ、長く話しているうちに、「人と上手に付き合う方法を見つけること」が大切だと教えてくれた。

実際、彼女のもとで働いた人々からは「人を大切にする姿勢」で認められ、愛されてきた。どの職場でも、人と接することを大事にすることで評価を築いてきた。

そんなミラー氏の最大の功績は、リバプール近郊エルズミア・ポートの旧ヴォグゾール・アストラ工場を、ステランティス傘下5ブランド(ヴォグゾール、オペルシトロエンプジョーフィアット)の商用EV工場に転換させた、18か月にわたるプロジェクトである。

これは英国の自動車産業の再生にも大きく寄与した。このEV工場が完成した今、ミラー氏は次なる任務として、英国内パーツ供給拠点の新設・運営に取り組んでいる。場所はEV工場のすぐそば。ここに5億ポンド(約1000億円)が投じられ、UK・アイルランド向けパーツ配送体制が再構築されている。

この新たなプロジェクトでは、生産部門の人員配置転換や新規雇用など大規模な再編が必要とされた。労働集約型のビジネスに、ミラー氏のような「人を動かせる技術者」はまさに理想的といえた。

始まりは「物理好き女子高生」

「わたしは北アイルランドの女子修道院系グラマー・スクール(進学校)に通っていました。Aレベル(大学進学資格)で物理を選んだのはわたしを含めて3人だけでしたが、先生が工学に情熱的で、結局3人とも工学部に進みました」

「リバプール・ジョン・ムーア大学では機械・生産工学を学びました。卒業生をリクルートするために企業が大学を巡る『ミルク・ラウンド』の一環で、フォードのダゲナム工場を見学したんです」

クロプリー編集長に工場を案内するミラー氏(右)。
クロプリー編集長に工場を案内するミラー氏(右)。    AUTOCAR

「1時間に60台のクルマが作られているのを見て、衝撃を受けました。30年以上この業界に身を置いていますが、今でもこの仕事は素晴らしいと思っています」

その後、彼女はフォードに就職し、ダゲナムに5年間勤務。塗装技術者から、欧州全体に新技術を導入する管理職へと昇進した。

塗装の仕事は誰にでも合うわけではないが、ミラー氏はどこでも、何でもやってみる意欲的な姿勢を評価されていた。

「大学でアイルランドから海を渡ったのが最初の大きな一歩。そこからは、どこへでも行けると思えました」

その後シカゴに派遣され、当初2年の予定だった塗装研修は4年に延長。当時このようなことは、多くの会社で見られたそうだ。「研修制度に参加したところで資金が底をつき、とにかく働かされるのです。塗装について詳しい人がいなかったので、自分で決断しなければならず、素晴らしい研修になりました。結果的に、うまくいきました」

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    役職:編集長
    50年にわたりクルマのテストと執筆に携わり、その半分以上の期間を、1895年創刊の世界最古の自動車専門誌AUTOCARの編集長として過ごしてきた。豪州でジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせ、英国に移住してからもさまざまな媒体で活動。自身で創刊した自動車雑誌が出版社の目にとまり、AUTOCARと合流することに。コベントリー大学の客員教授や英国自動車博物館の理事も務める。クルマと自動車業界を愛してやまない。
  • 翻訳

    小河昭太

    Shota Ogo

    2002年横浜生まれ。都内の文系大学に通う現役大学生。幼いころから筋金入りのクルマ好きで、初の愛車は自らレストアしたアウトビアンキA112アバルトとアルファロメオ2000GTV。廃部になった自動車部を復活させようと絶賛奮闘中。自動車ライターを志していたところAUTOCAR編集部との出会いがあり、現在に至る。instagram:@h_r_boy_
  • 編集

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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