パンクな仕掛け人 ブガッティのデザイン責任者が音楽から得るもの フランク・ヘイル氏に訊く古典と現代性の融合

公開 : 2025.10.13 11:45

ブガッティに求められるデザインとは?

そのため取締役会で「金箔を使うか、鋳造品ではなくアルミの塊から削り出すか」といった議論が繰り広げられても、最大の目標は企業の持続可能性にある。実際には、単なる企業存続のためだけでなく、彼らが生み出す超高級ハイパーカーが今後何十年にもわたって人々を魅了し続けられるようにするためでもある。

昨年、ブガッティは米国カリフォルニア州のラグナ・セカ・サーキットで、新開発の『ボライド』と歴史的な名車『タイプ35』を共演させ、タイプ35の誕生100周年を祝った。両車の対比が強調される中、ヘイル氏は、どちらも時代や流行を超越するよう設計された点で共通していると語る。

ブガッティ・トゥールビヨン
ブガッティ・トゥールビヨン

何よりもブガッティにとって重要なのは「タイムレス(時代を超越すること)」だという。

「これらのクルマは、一度製造され、事故に遭わなければ、わたし達がこの世を去った後も100年以上存在し続けるかもしれません。では、それはデザインにどんな課題を突きつけるのか? デザインはタイムレスなものでなければならないのです」

もちろん、人々の嗜好やデザインがどう進化するかは予測不能だ。そのため、タイムレスを「設計に組み込む」最善策は、時代遅れになるような要素を一切排除することである。

320万ポンド(約6億4000万円)の新型『トゥールビヨン』を例に挙げてみよう。搭載されているタッチスクリーンはたった1つで、使用時以外は完全に隠されている。「確かに、クリスタルガラスや、アルミニウム削り出しのセンターコンソールに費やしたのと同じ金額を、高級な8Kスクリーンにも投資できたはずです」とヘイル氏は言う。「ですが10年後には、8Kの解像度などまったく魅力的ではなくなるでしょう。あっという間に時代遅れになってしまうのです」

「クルマを急速に時代遅れにする要素からは距離を置き、ブガッティを運転する体験と同じように人間の五感に訴えかける、永続的な価値に投資すべきです」

超音速旅客機とハイパーカーの共通点

エンジニアリングを芸術として評価する彼の姿勢を考えれば、ヘイル氏が自らを「航空オタク(Avgeek)」と公言しているのも不思議ではない。航空機に魅了され、航空機の種類、その誕生秘話、空を飛ぶ仕組みについて深い知識を持っているのだという。

彼が高速道路の脇に立ち、空港へ向かって頭上を飛ぶエアバスA320の尾翼番号を丹念に書き留めている姿は見られないだろうが、空を飛ぶというエンジニアリングの力に対して深い敬意を抱いていることは確かだ。

ブガッティの名車タイプ35と新型ボライド
ブガッティの名車タイプ35と新型ボライド

一番好きな機体は? ……いや、最高速度480km/hの『シロン・スーパースポーツ』や1800psのV16エンジンを搭載したトゥールビヨンといった数々の傑作を手掛けた人物に、そんな質問をするのは愚かなことだ。

「コンコルドの大ファンです。研究した本は山ほどあります。残念ながら搭乗経験はないのですが、チェルシー(英国)に住んでいた頃、ヒースロー空港の飛行経路が自宅の真上を通っていました。ボーイング747や767とは明らかに違う、コンコルドが頭上を飛ぶ音はすぐに分かりましたよ」

この伝説的な超音速旅客機についてヘイル氏が最も魅了されているのは、「基本的にコンピューターをほとんど使わず、製図板と紙の図面だけで作られた」という点である。つまり、コンコルドの驚異的な性能と象徴性は、人間の才能によって成し得るものだということを証明している。この精神は、コンコルドが初飛行してから56年経った今も、彼自身の「人を第一に考える」経営方針に強く影響を与えている。

しかし、もっと明白な共通点もある。「当時の超音速飛行を目指す他の航空機では、Gスーツを着用する必要がありました。コンコルドでは、ただくつろいでワインを飲むことができたんです」

これは現代のブガッティと似ていると言わざるを得ない。ヴェイロンは故フェルディナント・ピエヒ氏(フォルクスワーゲン・グループ最高責任者)の厳格な要求に基づいて設計・開発されたことで有名だ。400km/h超の速度性能を持つ1000psのハイパークルーザーでありながら、2人のVIPを夜のオペラへ優雅に送り届け、窮屈に感じさせることなく、ドレスに皺も作らない。その結果、「ヴェイロンなら片手で300km/hを出せる」とヘイル氏は言う。

記事に関わった人々

  • 執筆

    フェリックス・ペイジ

    Felix Page

    役職:副編集長
    AUTOCARの若手の副編集長で、大学卒業後、2018年にAUTOCARの一員となる。ウェブサイトの見出し作成や自動車メーカー経営陣へのインタビュー、新型車の試乗などと同様に、印刷所への入稿に頭を悩ませている。これまで運転した中で最高のクルマは、良心的な価格設定のダチア・ジョガー。ただ、今後の人生で1台しか乗れないとしたら、BMW M3ツーリングを選ぶ。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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