次期型『カローラ』にFCEV導入 トヨタ、水素へ「全面注力」 美しいプロポーション維持

公開 : 2025.11.05 17:45

トヨタはマルチパスウェイ戦略の一環として次期型『カローラ』に燃料電池パワートレインをラインナップする方針です。水素社会の実現に取り組む中、水素供給インフラの充実化の鍵は大型トラックにあるとの見方を示しました。

水素技術は着実に進歩

トヨタの次期型『カローラ』はハイブリッド、内燃機関、バッテリーEVに加え、燃料電池(FCEV)パワートレインを搭載する計画だ。トヨタは「未来のエネルギー」として水素社会実現への取り組みを強化している。

他の大手自動車メーカーがFCEV技術から距離を置き、低排出ガスの内燃機関や次世代EVに注力する中、トヨタは水素パワートレインに積極的な姿勢を見せている。

トヨタ・カローラ・コンセプト
トヨタ・カローラ・コンセプト    トヨタ

現在、FCEVを販売しているメーカーはトヨタ、ホンダヒョンデの3社のみ。トヨタは脱炭素化に向けた「マルチパスウェイ」戦略の一環として、次世代車への水素パワートレイン技術導入に「完全なコミットメント」を表明している。

この方針に沿い、トヨタは現行ミライ比で20%高効率化を果たすという新世代FCEVパワートレインを開発中だ。さらにコスト削減のため、乗用車と大型トラック用燃料電池を同一ラインで生産する計画も進めている。

トヨタの水素ファクトリーを率いる山形光正プレジデントは、水素技術が依然としてニッチなソリューションであることを認めつつも、内燃機関が段階的に廃止される中でその役割が増していくとの予測を示した。「ペースは遅く見えるかもしれませんが、着実に進歩しているのは事実です」と同氏は言う。

山形氏はその証として、次期型のカローラ向けに「水素ベースのパワートレインを開発中」と明言した。次期型のコンセプトモデルは先日公開されたばかりで、プラグインハイブリッド(PHEV)、ハイブリッド、純内燃機関、バッテリーEVがラインナップされる見込みとなっている。

ただし、コンセプトモデルの基本構造を大幅に変えることなく燃料電池を搭載できるのかどうかはまだ定かではない。

「ご覧のような美しいプロポーションを維持するには、非常にスマートなパワートレインが必要です。カローラ向けに水素ベースのシステムを開発中であり、セルサイズを縮小することで大幅なコンパクト化を図っています」と山形氏は説明し、車両のプラットフォームに「きれいに」収めることを最優先課題と位置付けた。

インフラの鍵を握るのはトラック

しかし、水素燃料電池の技術的適合性よりも、FCEV普及の最大の阻害要因は燃料供給インフラの不足だ。この問題は、インフラを利用する車両が増えない限り解決されない。

山形氏はこの「鶏が先か卵が先か」の問題に対する解決策として、FCEVトラックの台数を増やすことで水素補給ネットワークの基盤を整備し、その後コスト効率の高い方法でFCEV乗用車向けに拡張する方針を示した。

水素ステーションを利用するトヨタ・ミライ(初代)
水素ステーションを利用するトヨタ・ミライ(初代)

同氏は、欧州にはすでに多くの水素ステーションが存在する(公式統計では約300か所)ものの、そのほとんどは台数の少ない乗用車向けだと指摘した。

「しかし、大型トラックの水素化の動きは加速しています。現在の課題は、乗用車向け水素インフラを大型トラック向けインフラへどのように転換するかというものです。トラックが大量の水素を使えば水素価格は下がるため、当社にとってチャンスだと考えています」

山形氏は、平均的なFCEVトラックがFCEV乗用車の約120倍の水素を消費すると試算している。

欧州の水素協議会(トヨタも加盟)は最近、同地域の高速道路網に200km間隔で水素ステーションを設置する構想を提案した。山形氏はこれに言及し、商用車・乗用車向け水素パワートレインの実用化への鍵となると述べた。

大型トラックは通常、決まったルートで定期運行されるため、インフラを特定の場所に集中させれば広い範囲を効率的にカバーできる。

山形氏は、業界団体、ガス会社、立法機関、政治家が協力してこの構想を実現させることが重要だと述べた。組織や地域が水素インフラを個別に展開し始めると、「経済規模のメリットを享受できず、水素価格も下がらないため、素晴らしい構想から人々が取り残されることになる」と指摘する。

大型トラックを水素ネットワーク構築の足掛かりとする際にもう1つ課題となるのは、トラックがエネルギー密度の高い液体水素を使用するのに対し、乗用車は省スペースな気体水素を使用している点だ。

しかし山形氏は、同一のステーションで液体と気体の両方を供給することは「100%可能」であり、必要な施設数を最小限に抑え、設置コストを削減できると述べた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    フェリックス・ペイジ

    Felix Page

    役職:副編集長
    AUTOCARの若手の副編集長で、大学卒業後、2018年にAUTOCARの一員となる。ウェブサイトの見出し作成や自動車メーカー経営陣へのインタビュー、新型車の試乗などと同様に、印刷所への入稿に頭を悩ませている。これまで運転した中で最高のクルマは、良心的な価格設定のダチア・ジョガー。ただ、今後の人生で1台しか乗れないとしたら、BMW M3ツーリングを選ぶ。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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