なぜジャパンモビリティショーは大躍進したのか?(後編)VWとAMGトップの言葉【不定期連載:大谷達也のどこにも書いていない話 #2】

公開 : 2025.12.15 11:45

コスト削減を製品のクオリティ改善に役立てる

なお、これまでのID.シリーズが後輪駆動もしくは4輪駆動であったのに対し、フォルクスワーゲンの新世代ID.シリーズはいずれも前輪駆動とすることで、スペース効率とコスト効率を改善。内外装も質の高いものとして従来からのフォルクスワーゲン・ファンに強くアピールしようとしている。

シェーファーの経営方針で特徴的なのは、会社運営の効率化を図ってコスト削減に努め、それを製品のクオリティ改善に役立てようとしている点にある。

こちらがID.ポロのプロトタイプ。
こちらがID.ポロのプロトタイプ。    フォルクスワーゲン

「フォルクスワーゲンは技術で業界をリードする量産メーカーとなることを目標として掲げています」とシェーファーCEO。

「これを実現するため、これまでで最大規模となるコスト関連の協定ならびに今後の方針について労働協議会と合意し、ドイツの工場におけるコストを20%削減することができました。また、社内の委員会や会議の数を1/3に減らし、組織をスリム化しました。さらには2030年までに自発的に退職することに従業員の数は2万人に上っており、(経営効率化の)計画は順調に進んでいます」

一方で製品の改良はどのような形で表れてくるのだろうか?

「これは主にユーザーエクスペリエンスとデザインの面で感じ取っていただけると思います。このうちユーザーエクスペリエンスについては、クルマに座った瞬間にどう操作すればいいかが直観的にわかることが大切です。

CEOに着任した3年前、私はステアリングに物理スイッチを戻そうと提言しました。この時、私は『なにを言っているのか?』と非難されるかもしれないと思っていましたが、実際には『ようやく、自分たちが思っていたとおりになる』という反応が中心でした。

インテリアについては、ID.ポロ以降のモデルで本物のフォルクスワーゲンと受け止めていただけるような素材を採用していますので、どうぞ楽しみにしていてください」

メルセデスAMGのCEOが語る方向性

もうひとりの要人は、メルセデスAMGのCEOであるミヒャエル・シーベである。

メルセデス・ベンツはジャパンモビリティショーに新型CLA、新型GLC、ビジョンVなどを展示。輸入車メーカーとして積極的な姿勢を示した。中でも興味深かったのがメルセデスAMGにとって初のEVとなるコンセプト『AMG GT XX』だ。

来日したメルセデスAMGのCEOであるミヒャエル・シーベ。
来日したメルセデスAMGのCEOであるミヒャエル・シーベ。    メルセデス・ベンツ日本

3基のアキシャルフラックスモーターを装備して実に1360psを発揮し、たった5分の充電で約400kmの走行が可能なバッテリーを搭載するというハイパフォーマンスぶりで話題を呼んだ。

その一方で、シーベは新しい排ガス規制(おそらくユーロ7のことだろう)に適合するV8エンジンを開発中であるとも明言。電動車だけでなくエンジン車も継続して生産する意向を明らかにした。

さらにシーベは今後AMGが目指していく方向性について次のように語った。

「お客様がAMGをお買い求めになる理由は、主に3つです。第1はスポーティなエクステリアデザイン。そこで2026年以降に発表する新型車は、これまで以上にメルセデス・ベンツと異なるデザインを採用することになります。そして第2の理由はパワフルであり、第3の理由は強い(strong)であることと捉えていますが、このふたつに大きな違いはないでしょう。

言い換えれば、エンジン車であろうとEVであろうと、パワフルでストロングであることが重要ということになります。ここで私たちが重視しているのは、エンジン車であろうとEVであろうと、AMGであれば同じ感動を引き出せる点にあります。

例えばAMGのエンジン車であればシートポジションは低く設定されています。したがって、フロア下にバッテリーを搭載するEVであっても、AMGであればシートポジションは低くあるべきだと考えています」

ふたりの発言を聞いていて共通していると感じたのは、今後、どれだけ電動車が普及していこうとも、ユーザーがクルマに期待する価値観は大きく変わらないというもの。

それらはデザインやクオリティ、そしてユーザビリティであり、力強い走りが楽しめるという点に集約できるだろう。そして今年のジャパンモビリティショーが成功裏に終わったのは何よりも、各自動車メーカーがこの点を重視してショーに参加したことにあったように思うのである。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    大谷達也

    Tatsuya Otani

    1961年生まれ。大学で工学を学んだのち、順調に電機メーカーの研究所に勤務するも、明確に説明できない理由により、某月刊自動車雑誌の編集部員へと転身。そこで20年を過ごした後、またもや明確に説明できない理由により退職し、フリーランスとなる。それから早10数年、いまも路頭に迷わずに済んでいるのは、慈悲深い関係者の皆さまの思し召しであると感謝の毎日を過ごしている。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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