BMW iX 詳細データテスト 至高の快適性 有り余るポテンシャル 好き嫌い分かれそうなルックス

公開 : 2022.03.12 20:25  更新 : 2022.03.13 02:16

走り ★★★★★★★★★☆

iXのカットガラスを用いたセレクターレバーは、たしかに魅力的だが、やや小ぶりで扱いにくく、ブラインド操作はしづらいので、クルマとの一体感が湧きづらい。また、他社のEVは多くがステアリングコラムに回生ブレーキの効き具合を調整するパドルを装備しているが、BMWは相変わらずそれを取り入れるする気がないらしい。

回生ブレーキのセッティングは、インフォテインメントディスプレイ経由で変更することはできる。けれども、この電動パワートレインに、マニュアルで働きかけることのできる部分はあまりない。

iXの速さは、使い切れないほどのポテンシャルを秘めている。全開にしなくても、走りにはまったく不満がないはずだ。回生ブレーキを簡単に調整できれば、さらにドライバビリティが向上するのだが。
iXの速さは、使い切れないほどのポテンシャルを秘めている。全開にしなくても、走りにはまったく不満がないはずだ。回生ブレーキを簡単に調整できれば、さらにドライバビリティが向上するのだが。    MAX EDLESTON

それでも、元気が足りないことはない。そこは期待通りだ。スタンディングスタートは非常にスムースで、粗さやエネルギーの無駄遣いを感じさせるところはない。これだけ大きなクルマとしては、かなり活発な走りだ。

全開にすると、4.4秒で97km/hに、10秒ジャストで161km/hに達する。われわれが実用加速性能のベンチマークとしている48−113km/hは3.4秒だ。先に名前の出たトリプルターボのベンテイガ・ディーゼルと比較するなら、トルクはベントレーのほうが13.3kg−m上回るが、タイムは最初の項目が1秒以上、次が2.5秒、最後が4.6秒、それぞれ余計に要した。

さらに競合モデルを引き合いに出すなら、アウディE−トロンSクワトロは、3モーターを搭載し、ベントレー以上のトルクを発生するが、3つの加速スコアのうちふたつでBMWの後塵を拝する。なぜそうなったのだろうか。

電動車や、そのモーターについて、どれも同じような項目を引き合いに出してパフォーマンスを比較しがちだが、iXに関していえば再考が求められる。

搭載する電気励起モーターは、ペダル操作へのレスポンスや加速性能に優れるのみならず、スタミナもある。単なる永久磁石モーターに比べ、高速道路の速度域以上に入っても大トルクを出し続けることができるのだ。

しかしながら、それが現実的な状況における高級車の走りにおいてどのようなかたちで表れるのかといえば、話はシンプルだ。推進力と速度のコントロールが、超絶優れたものになるのである。

iXは目を見開くような速さを秘めているが、そのポテンシャルをフルに引き出せる機会はめったにないはずだ。スロットルペダルを軽く踏んだだけでも、瞬間的にドライバーの意図へ反応し、音もなくといっていいほど、みじんも苦労することなく思い通りに走らせることができる。じつにみごとだ。

もしも注文をつけるとすれば、先に触れた回生ブレーキのセッティングに関する部分だ。より手軽にアジャストできるようになれば、ドライバビリティをさらに改善できるだろう。

BMWが用意したアダプティブ回生モードは、同種の設定の多くがそうであるように、ときとして予期せぬ遅れが生じる。たとえば、レーンチェンジや、コーナーやジャンクションにアプローチする際の、接近車両の検知などにおいてだ。

高級車には、予測性や一貫性が不可欠だ。その点、iXには若干の改善が求められる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    役職:ロードテスト副編集長
    2017年よりAUTOCARでロードテストを担当。試乗するクルマは、少数生産のスポーツカーから大手メーカーの最新グローバル戦略車まで多岐にわたる。車両にテレメトリー機器を取り付け、各種性能値の測定も行う。フェラーリ296 GTBを運転してAUTOCARロードテストのラップタイムで最速記録を樹立したことが自慢。仕事以外では、8バルブのランチア・デルタ・インテグラーレ、初代フォード・フォーカスRS、初代ホンダ・インサイトなど、さまざまなクルマを所有してきた。これまで運転した中で最高のクルマは、ポルシェ911 R。扱いやすさと威圧感のなさに感服。
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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