メルセデスAMG EQS 詳細データテスト 楽に飛ばせて快適 低速域は洗練性が不足 質感は不満も

公開 : 2022.06.26 18:25  更新 : 2022.07.11 08:28

走り ★★★★★★★★★☆

EQS 53は、コンパクトな同期モーターを2基搭載する。走行モードをコンフォートにして普通に走ると、ややパワーが低いほうの、325psのフロントモーターが車体を引っ張る。さらなる加速性能を求めた場合は、334psのリアモーターが加勢する。スポーツかスポーツ+の各モードを選ぶと、前後モーターがともにスロットルペダルに反応するが、トルクシフト機能が、前後駆動力配分を連続して調整する。

とくに三相ステーターコイルを用いるリアモーターは、自動車業界においてもより先進的な部類に入る。冷却系は通常のEQSよりアップグレードしているが、さらに前後の1速トランスミッションのために、オイルクーラーを追加している。

おそらく今後さらに速いAMGモデルが追加されるはずだが、この53でも驚くほど速い。それでいて、濡れた路面でもトラクションを失うようなことはない。
おそらく今後さらに速いAMGモデルが追加されるはずだが、この53でも驚くほど速い。それでいて、濡れた路面でもトラクションを失うようなことはない。    LUC LACEY

理論上は、トルクデリバリーがスムースになり、効率もパワーのポテンシャルも引き上げられる。しかし、EQS 53において、それを余すところなく感じられるのは、8995ポンド(約148万円)のAMGパフォーマンスパッケージを選択した場合のみで、最高出力が658psから761psにアップする。テスト車は残念ながら、658ps/96.9kg−mの、アップグレードされていない仕様だ。

とはいえ、現時点でAMG 53は、EQSの最速グレードだ。その速さはいかなるものかといえば、おみごとのひと言だが、それはキャビンでの体感よりテレメトリーに目を注いでいるときのほうが明らかだ。というのも、そのボディサイズと乗員をすっかり取り囲むようなインテリアには、速度を多少遅く感じさせるところがあるからだ。

スポーツ+モードでふたつのペダルを同時に踏み込むと、レーススタート機能が起動する。SFチックな唸りが不意に響きはじめ、気分を盛り上げるが、おそらくエンジン回転の上昇を模しているのだろう、その音が次第に高まっていく。

そこでブレーキペダルを放すと、ワープしそうな速度でクルマは前へ飛び出していく。2673kgのテスト車は、3.6秒で97km/h、8.4秒で161km/hに到達する。ライトなAMGモデルとしては、悪くない数字だ。

しかし、本当にショッキングなのは中間加速。つまり、オーバーテイクの際などに心底驚かされることになる。

48−80km/hのタイムは1.2秒、64-97km/hは1.3秒で、まるでテレポーテーション。48-113km/hという、高速道路への合流など現実的なシチュエーションで体験する加速は、たったの2.8秒で完了する。しかも、それほどマッチョなクルマでありながら、濡れた路面であってさえ、直線加速テストでトラクションに問題が発生することはまったくなかった。

もっとも印象に残ったのは、気難しさや過敏さをまったく感じさせないことだ。ドライブモードの変更でスロットルレスポンスのシャープさは変わるが、慎重にセッティングされている範疇から逸脱することは決してない。ジャンクションからの脱出も、駐車スペースへ入るのも、オーバーテイクするのも、どれも等しくイージーなのだ。

回生ブレーキの制動力には、交通量や路面状況に応じた自動調整機能が備わる。これはほぼ落ち着きを失うことなくアジャストしてくれるのだが、ステアリングホイールに取り付けられたパドルで調整できる機能も便利だ。また、回生ブレーキで完全停止もできるので、文字通りの1ペダル運転を可能にする。

おそらく、それはこのクルマにとって好都合だ。本当に必要となればたやすく停止させることができるものの、ペダルフィールそのものはプアで、急ブレーキが必要な際には、このクルマの重さを失念しているとヒヤッとさせられることになりかねないからだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Koichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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