テスラ・モデルS 詳細データテスト 市販車最高の加速 全体の洗練度は不足気味 右ハンドルがほしい

公開 : 2023.08.12 20:25

走り ★★★★★★★★☆☆

モデルSプレイドの加速を極限まで引き出すためには、できるだけバッテリーを充電することがまず前提となる。われわれは90%の段階でテストを開始した。次にすべきは、ドラッグ・ストリップと銘打たれた走行モードを選ぶことだ。これにより、バッテリーがあらかじめ理想的な温度に調整される。そのための時間は多少必要だ。だいたい、7分くらいで準備を完了する。

左足でブレーキを踏みながら、右足でスロットルを床まで踏みつけると、プレイドは数秒でチーター・スタンスに入る。フロントモーターがその力を余すことなく路面へ叩きつけられるよう、ノーズをリフトに備えて低くした姿勢を、テスラは俊足の猛獣にたとえたわけだ。

動力性能は圧倒的だが、公道でそれを扱うには不備が目立つ。スロットルペダルのセッティング見直しと、回生と摩擦のブレーキ協調制御導入は喫緊の課題だ。
動力性能は圧倒的だが、公道でそれを扱うには不備が目立つ。スロットルペダルのセッティング見直しと、回生と摩擦のブレーキ協調制御導入は喫緊の課題だ。    JOHN BRADSHAW

そうしてスタートラインから飛び出した電気じかけの猛獣は、2.4秒で97km/h、2.5秒で100km/hに到達。その後は4.6秒で161km/h、10.9秒で257km/hに届く。この加速、どこを切り取ってみてもブガッティ・ヴェイロンを凌ぐタイムだった。

0−1kmでさえもW16のハイパーカーを上回ってみせたが、それはリミッターに当たったまま走る時間が5.7秒もあった上での結果だ。さらに、1.6kmストレートが尽きる手前で停止するため、1km通過前にブレーキを踏み始めたことも付け加えておきたい。

ドラッグ・ストリップやチーター・スタンスの無駄な待ち時間や手続きがあっては、せっかくのパフォーマンスも台無しになるのではないかと思うかもしれない。しかしながら、機械への思いやりを多少なりとも持ち合わせているなら、ガソリンエンジン車でも暖気なしに全開加速しないはずだ。

もっとも、ドラッグ・ストリップを使わないタイム計測も参考までに行ってみた。プレイドモードでの0−97km/hは2.7秒、0-161km/hは5.1秒で、スポーツモードに落としても、フォードマスタング・マッハEを打ち負かす3.7秒で97km/hに達した。チルモードでの7.3秒という0-97km/h加速も決して遅くはないが、ほかのモードの後に試すと、ノロノロ運転に思えてしまったというのが正直な感想だ。

モデルSプレイドが、呆れるような動力性能の持ち主であることは疑う余地もない。しかし、公道上でのドライバビリティについては、話が違ってくる。

幻覚が見えそうなくらい速いので、公道でフルスロットルを楽しめるのはほんの数秒だ。ではあるが、あまりに瞬間的で暴力的なので、本能的に味わう体験となってしまう。ガソリンエンジン車なら、どんなに速いスーパーカーでも、なるべく早く正しいギアを選び、ターボが立ち上がるのを待つ猶予が、わずかながらでもあるところだ。

テスト中、ほとんどの間はスポーツモードで走らせた。プレイドモードの有り余る動力性能を容易くスムースにコントロールするには、スロットルのトラベルが十分になかったからだ。

事態が厳しくなるのは、ペースを落としたときだ。テスラは最新EVのほとんどがやってのけるようには、回生と摩擦の両ブレーキを協調させることができない。ブレーキペダルはディスクブレーキ専属で、回生ブレーキはスロットルオフによってのみ作動する。

テスラのワンペダル運転は、最高レベルに数えられる。それだけに、普通に運転している分にはみごとだ。しかし、ふたつのペダルをどちらも使いたいというEVのドライバーはかなり多い。

サーキットでは、ブレーキ協調の欠如が深刻な問題になる。正確にしっかりブレーキペダルを踏むことが必須となり、それをテスラが認識しているかのように、トラックモードでは回生の効きが弱められる。しかし、そうなるとディスクブレーキは単独で2tの重量と1034psのパワーを備えるクルマの運動エネルギーを引き受けなければならない。当然ながら、短時間でオーバーヒート傾向を示すようになってしまう。

ブレーキペダルのフィールそのものは良好で、113km/hからの完全制動に要する距離は43.1mと、この重さのクルマとしては悪くないのだが。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 執筆

    イリヤ・バプラート

    Illya Verpraet

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Koichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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