ルノー5 vs フォード・カプリ:「レトロ」車がヒットする条件とは? 英国記者の視点

公開 : 2025.02.10 18:05

昔の有名なクルマの名称を復活させる動きが、いくつかの自動車メーカーで見られる。ルノー5などは成功が実証されているが、首を傾げざるを得ないブランドもある。「レトロ戦略」のヒットの鍵は何なのか、英国記者が考える。

昔の車名 使い方には要注意

驚くことではないが、先日、ルノー5とアルピーヌA290が共同で欧州カー・オブ・ザ・イヤー2025(国際的な自動車賞の最高峰)を受賞した。

筆者は標準モデル(5)には乗ったことがないが、高性能モデル(A290)には乗ったことがあり、とても楽しかった。筆者のレビューを見て、親戚の友人が注文することにしたので、筆者が間違っていなければいいのだが。

フォードは新型電動SUVを「カプリ」と命名したが、これは60~80年代に生産されていたクーペにあやかったものだ。
フォードは新型電動SUVを「カプリ」と命名したが、これは60~80年代に生産されていたクーペにあやかったものだ。

いずれにしても、5とA290に惹きつけられたのはルノーの手腕によるものである。よく知られた車名を蘇らせただけでなく、それにふさわしい外観も復活させたのだ。

従来のライバルだけでなく、急成長する中国自動車メーカーとの激しい競争に直面する中、これはマーケティング担当者から推奨され、しばらく前から醸成されてきた戦略である。

その考え方は、顧客に「当社は長い間自動車を作り続けており、特にその分野に秀でている。だから、このモデルは信頼できる」と印象付けるというものだ。昔の5を覚えている人であれば、新型車に対してすでに少し親しみを感じているだろう。

中国・上海汽車集団(SAIC)がMGブランドを買収し、使用しているのはまさにこの理由からだ。しかし、特定のモデルにおいて伝統を活かすという手法は、新興の自動車メーカーには真似できない利点である。

一部の顧客や市場調査ではその効果は認められないかもしれないが、新しいフィアット500やミニが十分に道路を走っていることから、この戦略が有効であることは明らかだ。

多くの自動車メーカーがもっと頻繁にこの戦略を採用していないことが筆者には驚きだ。しかし、デザイナーたちと話すと、その理由が分かる。

彼らは、過去を振り返っていても人生は進歩しない、世界は常に前進している、そして、30年前に誰かがやったことをただ描き直すためにデザイナーやクリエイターになったわけではない、と考えている。

多くのデザイナーはレトロにアレルギーを持っている。彼らは、何かを再現するよりも、むしろアイコンを創り出すことを好む。初期のヒット曲を演奏したがらないバンドを思い浮かべてほしい。

それは分かる。しかし、顧客がそれを望んでいることが明らかであり、親しみやすさや信頼感、あるいはノスタルジーを醸し出すものであるならば、一度冷静になって「チームのみんな、腹をくくって、やってみよう」と声を上げるべきだ。(ちなみに、ルノー社内でこのようなことが起こったと言っているわけではない)

ルノーの場合は、早い段階からこの戦略に関心を示していたことが功を奏したようだ。

フォードのアプローチは説得力に欠ける。筆者はこの会社を心配している。フォードは過去、欧州市場において乗用車で儲けるのに苦戦してきたが、他のメーカーほどは気にしていない。なぜなら、バンが売れているからだ。フォードは小型商用車の最大手である。

もし乗用車がなかったら、スケールメリットを活用して事業全体を黒字化することはできなかっただろう。乗用車とバンはうまく共存してきた。

しかし、乗用車にも貢献が求められるだけでなく、フォードはゼロ・エミッション車の普及に向けた準備が(特に英国市場で)整っていないため、状況はどれほど深刻なのかと筆者は思う。

クラシックな車名を復活させるというアイデアは半分正解だが、筆者や多くの購入者にとっては、それにふさわしい製品がなければ的を射たものとは言えない。

クラシックなクーペを現代風にアレンジしたような、最高にカッコいいカプリが欲しいと思わないだろうか? もちろん、筆者は欲しい。

しかし、カプリ、マスタングエクスプローラー(欧州仕様)などと呼ばれるクルマは、魅力的な外観ではなく、他の数多くのモデルと同じようなありきたりで目立たない外観をしている。では、その魅力とは一体何だろうか?

車名の由来以外で、どこに興味を持てるだろうか?

もし筆者がフォード、あるいは他の大手自動車メーカーの重役なら、プライドを捨てて、過去のカタログから有名な車名を見つけ出し、それにふさわしい外観を付与するだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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