ルノー5からパンダまで、小型車を救った人物 フランソワ・ルボワン氏:デザイナー賞 AUTOCARアワード2025

公開 : 2025.07.29 11:05

2024年後半から2025年前半で、各カテゴリーのベストを称えるAUTOCARアワード。最高経営責任者からデザイナー、F1チームまで、各部門賞に輝いた人物や組織とは? UK編集部が4人+1チームを選出。

企業の「アイコン」を作る

実際に発売される前に、新型車がそのメーカーのイメージを一変させるほど高い評価を得ることは、極めて稀だ。

それは、自動車デザイナーが夢見るような瞬間だが、実現できる人はごくわずかだ。しかし、フランソワ・ルボワン氏の最近の2つの作品は、まさにそれを実現している。しかも、それぞれ別の企業のために作ったものだ。AUTOCAR英国編集部は、彼こそが今年の『デザイン・ヒーロー(Design Hero)』賞にふさわしい人物だと考えた。

フィアットのデザイン責任者を務めるフランソワ・ルボワン氏
フィアットのデザイン責任者を務めるフランソワ・ルボワン氏

フィアットのデザイン責任者として、彼は1980年代のパンダへのオマージュを巧みに取り入れ、繊細なディテールを織り込んだ新型グランデ・パンダの開発を指揮した。

このモデルは、フィアット500に過度に依存していた同社に新たな可能性をもたらし、手頃な価格のクルマでも驚くほどスタイリッシュに仕上げることができると証明した。「新しいアイコンを作らなければならないと考えていました」とルボワン氏は語る。

「フィアットは素晴らしいブランドですが、わたしが4年前に着任した当時、500への依存度が高すぎました。それは誰の目にも明らかなことでしたが、その問題に取り組むのは容易ではありません。500は当社のヒーローカーだったため、すべてのプロジェクトを(デザイン面で)500に関連させるべきかどうかという疑問がありました。わたしの答えは、2台目のヒーローを作る必要がある、というものです。もちろん、容易なことではありません」

ルノー時代に開いた才能

ルボワン氏の物語は、彼がトリノのフィアット・チェントロ・スティーレに入る前から始まっている。自動車業界でのキャリアの大部分は、フランスのルノーで過ごしてきた。

ルノーのコンセプトカーのデザイン責任者として、彼はクラシックモデルのリバイバルという任務を与えられた。しかし、2年間の作業を経て、2020年に「誰も興味を示さない」という理由でプロジェクトは行き詰まってしまう。

ルボワン氏が手掛けたルノー5コンセプトのスケッチ
ルボワン氏が手掛けたルノー5コンセプトのスケッチ

ところが、ルノー・グループの新CEO、ルカ・デ・メオ氏が就任初日にデザインスタジオを訪れ、ルボワン氏の描いたEV版ルノー5のビジョンを見て、「これを作ろう」と言い出したのだ。

「最高の瞬間でした」とルボワン氏は振り返る。「あのようなプロジェクトを前進させることができるのが、CEOの力です。わたしはルカと6か月間プロジェクトに没頭し、彼は本当に近くで関わっていました」

デ・メオ氏が2021年にルノーの事業改革を打ち出した際に披露したのは、ルボワン氏のコンセプトカーだった。ルボワン氏は量産モデルが完成する前にフィアットに移籍してしまったが、彼の残したデザインの特徴はすべて引き継がれている。

自分がデザインに携わったクルマが、特にグランデ・パンダとほぼ同時に発売されるのは不思議な気分だという。ルノー5の登場を社外から見守っていたことについて彼は、「通常、社内にいれば、その過程を見ることができます」と語る。

「しかし、今回は時間のずれがあり、別の場所から登場する形になったんです。ただ、わたしはずっと、グランデ・パンダの方を見続けてきました。わたし達が打ち負かさなければならない相手が分かっていたからです。同じ武器ではなく、別の武器で競争できると分かって嬉しかったです。わたしがフィアットに入社したとき、最も重要だったのは、手頃な価格で、スマートに設計され、さらに親しみやすいクルマを作ることでした。これはEVでは難しいことです」

5とグランデ・パンダは、レトロモダンなデザインと比較的コンパクトなサイズだけでなく、親しみやすく明るいキャラクターにおいても結びつく部分がある。「ポジティブな未来のイメージを伝え、その未来を笑顔で届けることがとても大切です」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    役職:雑誌副編集長
    英国で毎週発行される印刷版の副編集長。自動車業界およびモータースポーツのジャーナリストとして20年以上の経験を持つ。2024年9月より現職に就き、業界の大物たちへのインタビューを定期的に行う一方、AUTOCARの特集記事や新セクションの指揮を執っている。特にモータースポーツに造詣が深く、クラブラリーからトップレベルの国際イベントまで、ありとあらゆるレースをカバーする。これまで運転した中で最高のクルマは、人生初の愛車でもあるプジョー206 1.4 GL。最近ではポルシェ・タイカンが印象に残った。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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