新型ホンダ・プレリュードの開発主査に雪上で詰め寄った話【不定期連載:大谷達也のどこにも書いていない話 #1】

公開 : 2025.10.21 11:45

クォリティの高いデザイン

先に断っておくと、私は新型プレリュードのデザインが決して嫌いではない。いや、むしろ大好きだし、これほどクォリティの高いデザインが日本車から誕生したことに驚きさえ感じている。

『クォリティの高いデザイン』という言葉は、あまり聞き慣れないものかもしれない。しかし、クルマのデザインには『美しい/美しくない』、『好き/嫌い』とは別の次元に、クォリティの高いデザインとクォリティの低いデザインが確実に存在すると信じている。

新型ホンダ・プレリュードは『クォリティの高いデザイン』と筆者。
新型ホンダプレリュードは『クォリティの高いデザイン』と筆者。    本田技研工業

クォリティの高いデザインは、まずプロポーション(クルマの全体的な造形)が美しく、ボディを構成するラインがよくまとまっていて、どこから見ても3次元的な造形として破綻をきたしていないものと説明できる。

クォリティの低いデザインはその逆で、クルマの前後、もしくはフロントオーバーハング、ホイールベース内、リアオーバーハングなどの配分やボリューム感のバランスが悪くて、ボディを構成するラインがバラバラでまとまりがなく、3次元的な視点で造形されていないために、見る者の立ち位置によって大きく印象の異なるデザインということになる。

私の中でいえば、クォリティの高いデザインの代表例はクラウス・ブッセがチーフデザイナーに就任して以降のマセラティ各モデルであり、クォリティの低いデザインは……いや、これは皆さんのご想像にお任せすることにしておこう。

3次元的な造形という評価軸

こうした観点から新型プレリュードを眺めると、派手なところはどこにもないけれど、プロポーションの観点からいっても各ラインの関係性についても3次元的な造形という評価軸から見ても破綻がなく、実に完成度が高いと思う。

もっとも、派手なところがないだけに緻密な作業を繰り返さなければこの完成度に到達することは難しく、生産技術面でも様々な苦労があったと推察される。車両価格は600万円台前半とラグジュアリーカーに比べればはるかに安い価格帯で、これだけ緻密で美しい形を生み出したホンダのデザイン部門には、率直に賞賛の言葉をお贈りしたい。

スポーツカーのような走りと洗練されたデザインが釣り合っていないと思えた。
スポーツカーのような走りと洗練されたデザインが釣り合っていないと思えた。    神村聖

でも、私が山上LPLに言いたかったのは、そういうことではない。

完成度が高くて洗練されていて外連味のないデザインだからこそ、私が鷹栖で感じた走りのインパクトと釣り合ってないないように思えたのである。そしてそれゆえに「これで大丈夫?」と感じたのだ。言い換えれば、あのヒリヒリするスポーツカーのような走りを反映した、もっと刺激的で、ある意味でクセのあるデザインでもよかったのではないかと考えたのである。

私が勢いに任せて語った言葉に山上LPLは、「うーん、でも、実は……」と口ごもって何かを言いたそうにしていたが、簡単には説明できないと思ったのか、それともその時点ではそれ以上説明できない何らかの事情があったからなのか、結果的に具体的な説明はないまま、お互いにその場を離れることになった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    大谷達也

    Tatsuya Otani

    1961年生まれ。大学で工学を学んだのち、順調に電機メーカーの研究所に勤務するも、明確に説明できない理由により、某月刊自動車雑誌の編集部員へと転身。そこで20年を過ごした後、またもや明確に説明できない理由により退職し、フリーランスとなる。それから早10数年、いまも路頭に迷わずに済んでいるのは、慈悲深い関係者の皆さまの思し召しであると感謝の毎日を過ごしている。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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