【現役デザイナーの眼:フェラーリ・ルーチェ】初のEVは賛否両論 合理的に成立も希薄なパッションや官能性

公開 : 2026.05.30 12:05

重要なのはスタンス

そして何と言っても重要なのは『スタンス』です。タイヤの位置や大きさ、フェンダーやオーバーハングの処理、キャビンがコンパクトであることなどの要素が揃うことで、スポーツカーらしい踏ん張り感が表現できます。

ルーチェは前述の通り、スポーツカーとしてはキャビンがとても巨大です。さらにタイヤ周辺の造形も重く、特にリアフェンダーまわりはボリュームが大きすぎるため、315/30R24という巨大タイヤを履いているにも関わらず効果的に見えていません。リア正面から見るとそれが顕著で、真四角のシルエットはスポーツカーらしいスタンスではないですね。

ルーチェは、スポーツカーとしてはキャビンがとても巨大です。
ルーチェは、スポーツカーとしてはキャビンがとても巨大です。    フェラーリ

ですのでルーチェは純粋なスポーツカーには見えず、SUVほどの力強さもなく、サルーンの上質感とも少し違う。そのため、『これは何者なのか?』が直感的に分かりにくいクルマになっています。

もしこれが、最近開発中止となった『ホンダ0サルーン』のような、もっと低いパッケージで成立していたなら、説得力は大きく変わっていたかもしれません。

フェラーリが背負う宿命

ルーチェの評価が難しい理由は、単にデザインだけでなく『フェラーリであること』が、さらにハードルを上げています。

フェラーリは、単なる高級スポーツカーブランドではありません。購入層以外の人々からも注目され、憧れの対象として崇拝される存在です。だからこそ、フェラーリのデザインには常に特別感や高揚感が求められます。

とことん理性的に見えるデザインで、これを「フェラーリではない」と言う方の気持ちもよくわかります。数十年後にどう見えるか確認したいところです。
とことん理性的に見えるデザインで、これを「フェラーリではない」と言う方の気持ちもよくわかります。数十年後にどう見えるか確認したいところです。    フェラーリ

しかしルーチェは、非常に理性的。空力や機能を追求し、EVとして合理的に成立している一方で、『パッション』や『官能性』がやや希薄に見えてしまう。工業製品として完成度を追求した、家電的なデザインのようにも感じられます。

ただ、かつてフェラーリが4シーターミドシップという特殊なパッケージを持つ『モンディアル』を世に送り出したように、ルーチェもまた、既存のフェラーリ像を崩そうとしているのかもしれません。

今の物差しで解説いたしましたが、現在は違和感を持たれているこのデザインも数十年後には『時代を先取りしていた』と再評価される可能性もあるのです。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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