「1000馬力=1000頭の馬」はただの空想! 馬力に関する不都合な真実 炭鉱とフェラーリの話【UK編集部コラム】

公開 : 2026.06.25 17:05

エンジンの性能を示す指標の1つに「馬力」がありますが、厳密には測定基準としては不適切なものです。たとえ1000psという途方もないパワーを誇ったとしても、純粋に「馬1000頭分のパワー」ではないのです。

知っておくべき3つのこと

「馬力」には興味深い裏話がある。しかし、熱心なクルマ好きの方なら、つい先日までの筆者がそうだったように、馬力の歴史については読まないままでいることをお勧めする。できれば、無知の幸せを満喫しておいたほうがいい。

いずれにせよ、馬力について本当に知っておくべきことは3つだけだ。第一に、スコットランドの著名な発明家ジェームズ・ワット氏は、実際には馬力を発明したわけではなく、単に体系化しただけだということ。

馬力(horsepower)は魅力的だが少々厄介なものだ。
馬力(horsepower)は魅力的だが少々厄介なものだ。

第二に、馬力とはそもそもエンジンの測定可能な出力というより、あくまで概念――つまり数学的な概念に過ぎないということ。

そして第三に(おそらく学術的な話だが)、自動車のエンジンにはずっと誤って適用されてきたということだ。動く車両の内部に搭載され、推進力を与えるあらゆるエンジンにとって、馬力は単に不適切な測定基準なのだ。

なぜ「馬」の力なのか?

とはいえ、最後の点はそれほど重要ではない。なぜなら、馬力のない自動車の世界を想像することはほぼ不可能だからだ。ピーク出力883kWの新型スーパーカーという文言に、どれだけの人が胸を躍らせるだろうか? 馬力に換算すると、1184英馬力(1200仏馬力)となる。それならぜひ欲しい。

とてつもないトルク値について延々と語ってもいいし、エンジン回転数について語っても構わない(エンジンの出力のあらゆる表現は、結局のところトルクに回転数を掛けたものを「解釈」したに過ぎない)。だが、重要なのは馬力ではないか? 馬力があれば売れる。それが、パフォーマンスカーにおける唯一の、普遍的かつ決定的な要素なのだ。

AUTOCAR JAPANでは基本的に出力を「ps」(仏馬力)で表記している。
AUTOCAR JAPANでは基本的に出力を「ps」(仏馬力)で表記している。

これは幸運なことだ。そうでなければ、なぜ現代の自動車エンジンの出力を、18世紀後半の醸造所の荷馬がこなせる仕事量の、かなり恣意的で議論の余地のある推定値に基づいて測定することになるのだろうか? 初期の実業家たちに定置式蒸気機関を売り込むために考案された、まったくの概念上の数値が、どうして現代の自動車を比較するための世界共通の通貨のようなものになってしまったのだろうか?

誰にでもわかりやすい概念

かつて、ワット氏にとって馬力は販売ツール、いわゆる「トランスクリエーション」だった。

鉱山経営者たちは、銀行小切手に署名する前に、鉄道のホッパ車にどれだけの石炭を積み込めるかだけでなく、その石炭を坑道の奥底から坑口までどれだけ速く運べるかを知りたがっていた。馬力という単位は、購入する蒸気機関1台につき、何頭の馬を放牧できるか――あるいは、この初期の機械化が利益率にどれほど劇的な変化をもたらすかを、彼らに示すことができたのだ。

ジェームズ・ワット氏は自身の蒸気機関の性能を示すために、馬力という概念を体系的に用いた。
ジェームズ・ワット氏は自身の蒸気機関の性能を示すために、馬力という概念を体系的に用いた。

しかし、馬力に関する不都合な真実を、ここで紹介しなければいけない。ワット氏は計算を控えめにしていたのだ。伝えられるところによると、1782年に彼がビール醸造所の荷馬を観察した際、馬力は、特定の馬が集中的な作業で達成できる能力ではなく、平均的な馬が1日の労働時間を通じて維持できる能力を表すように算出されていたという。

忘れてはならないのは、彼が販売していたのは定置式の蒸気機関であり、移動車両に搭載されるような機関ではなかったということだ。移動式の場合、負荷はより動的な(増減する)要因として考慮されたかもしれない。彼が売っていたのは、1日中ひたすら唸り続けながら稼働する機関だ。だからこそ、その後明らかになったように、健康な馬1頭は本気で汗を流して働けば、通常15馬力相当の力を生み出すことができるのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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