稀代な3台のロータリー マツダ・コスモ、NSU Ro80、シトロエン・ビロトール 前編

公開 : 2019.10.19 07:50  更新 : 2021.03.05 21:43

NSU Ro80とシトロエンGSビロトール、マツダ・コスモは、ロータリーエンジンを搭載したクルマという点で共通しています。しかも3台は1人の非凡なオーナーによって大切に乗られています。惹きつける魅力とは何なのでしょうか。

ロータリーエンジン車を30台以上も保有

text:Martin Buckley(マーティン・バックリー)
photo:John Bradshaw(ジョン・ブラッドショー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

30台以上のクルマをコレクションする、フィリップ・ブレイク。そのクルマで共通する点は、ロータリーエンジンを積んでいるということ。

彼自身も所収する数の多さや、クルマの社会的な非適合さは理解しているから、判断力がブレイクしているわけではない。昼間は電気技師として、週末の夜にはDJとして活躍するブレイクは、自動車だけにとどまらない情熱的な男なのだ。

NSU Ro80/シトロエンGSビロトール/マツダ・コスモ110S
NSU Ro80/シトロエンGSビロトール/マツダ・コスモ110S

ロータリーエンジンは50年以上前に、ピストン運動する通常のエンジンにかわって登場。当時は多くの人が期待を寄せていた技術だ。

滑らかに回転し、コンパクトでシンプルなエンジンの魅力は、かえがたいものだと認める読者もいるだろう。マツダは2012年までRX−8にロータリーエンジンを搭載し続けたが、燃費の悪さや環境負荷、寿命や信頼性で劣るという評価も強く、ヴァンケルが灯した炎は、今は途絶えている。

ブレイクにロータリー愛の火を付けたのは1980年代。当時10代だった彼は、200ポンド(3万円弱)で購入したNSU Ro80を親に内緒で運転していたそうだ。そのドイツ製サルーンは、今でも30年以上所有している。

今から約20年前、ロータリーエンジンの量産化に初めて成功し、世界的にも研究成果を讃えられたマツダ110Sコスモに手に入れたブレイク。それ以来、未来的なデザインをまとう1968年生れの2シーター・クーペも彼の手の中にある。

歴代の日本車の中でも希少性は高く、恐らくコレクター・コンディションなら10万ポンド(1330万円)はくだらない。トヨタ2000GTに次ぐ価値を持つ、日本製のクラシックカーだ。大きなレストアも受けていないコンディションは自慢だという。

世界初のロータリー・4ドアサルーン

さらに珍しいロータリーエンジン・モデル、シトロエンGSビロトールというミステリアスなクルマも所有している。 新車当時の価格は格上のシトロエンDS23 Efiと同じという強気で、GSをベースにした超個性派が販売されたのはわずか847台に留まった。

異端児としてシトロエンからも見捨てられたGSビロトールは、後のサポートや部品供給の手間を省くべく、クルマの多くを買い戻し破壊するほどだった。それでも3分の1程度は生き抜いているはずだが、いずれもブレイクのクルマほど状態は良くないだろう。

NSU Ro80
NSU Ro80

NSU Ro80は大きな欠陥からは免れた。1967年から1977年の10年間にかけて、3万7204台が製造されている。流麗なラインの楔形ボディの5シーターは、コンパクトでスムーズなロータリーエンジンを発明したフェリクス・ヴァンケルの説得力を高めた。

世界で初めてロータリーエンジンを搭載した4ドアサルーンというだけでなく、クルマとしての洗練度も高く、優れた評価を得たクルマでもあった。リアエンジンのコンパクトカーやスクーターで知られていたNSUだったが、優れた大型サルーンには大きな期待を寄せていたはずだ。

Ro80の初期の販売は順調だったが、エンジンは故障しやすく、1970年代に入っても信頼性は向上しなかった。今のドイツでは、NSU Ro80のオーナーがお互いに挨拶する際、エンジンの交換回数を指で示すのが通例というから皮肉だ。

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