フォルクスワーゲンID.4 詳細データテスト 穏やかな出力特性と操縦性 遅くないが刺激は足りない

公開 : 2021.11.06 20:25

走り ★★★★★★★☆☆☆

電動車の直線加速性能は、数字だけにとらわれすぎだと批判されがちだ。われわれもそれには賛同する。その理由は、しばしば数字以外に語ることがないからだ。

電気モーターはレスポンスが素早く、パワーデリバリーは驚くほど一定だが、個性に欠けるところがあるのもまた事実だ。それゆえ、2台のライバル車を比較する際、差別化ポイントは数字しかない。スペック表においても、路上での刺激においてもだ。そして、数字は数字以上の意味を帯びるようになる。

決してモーター性能が足りないわけではないのだが、期待したほどの速さは味わえなかった。どちらかといえば、街乗り向きのセッティングだ。
決してモーター性能が足りないわけではないのだが、期待したほどの速さは味わえなかった。どちらかといえば、街乗り向きのセッティングだ。    LUC LACEY

これはフォルクスワーゲンがことさら熱心に、自社でもっとも重要なEVのフラッグシップバージョンの加速へ、いくばくかのリアルな刺激を与えようとしたことを意味すると考えるかもしれない。

ところが、テストコースでの0−97km/h計測で、このID.4GTXは6.2秒という悠長な加速ぶりをみせた。見通しのいい道路でなら楽に追い越しできる速さだが、マスタング・マッハEやテスラモデルYの速いバージョンに比べれば、印象に残るほどではない。

おそらく問題の一因は、フォルクスワーゲンが加速レスポンスを比較的コンサバティブにセッティングしたことにもある。これにより、日々の運転は気を使わなくて済むようになっている。その代償として失われたのが、ライバルの中にはみられるものもある、カミソリのようなシャープさやエキサイティングな追い越し加速だ。

それ以上におもしろみに欠けるのが、刺激的なトルクを味わえる発進から、2基のモーターが協調して本量を発揮する段に至ると、48.1kg-mのトルクがウェイトに対して力不足であるように、迫力がないことだ。

数値的に見れば、決してプアなトルクではない。同じくらいウェイトが重いライバルと比較してもそういえる。にもかかわらず、ペダルを踏み込むたびに、GTXはやや活気がないように感じる。これは興味をそそられる事実だ。

全体的に見てこのクルマは、走り志向というよりは日常での使いやすさを重視してセットアップされたように思える。ブレーキペダルはソフトで、コーナー手前の減速では十分な正確さが得られない。

ところが、市街地では完全なまでに直感的だ。そこでは、どんな場合でもうまくセッティングされた回生ブレーキ任せでいける。要は、期待していたよりもおとなしいクルマだったということだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    役職:ロードテスト副編集長
    2017年よりAUTOCARでロードテストを担当。試乗するクルマは、少数生産のスポーツカーから大手メーカーの最新グローバル戦略車まで多岐にわたる。車両にテレメトリー機器を取り付け、各種性能値の測定も行う。フェラーリ296 GTBを運転してAUTOCARロードテストのラップタイムで最速記録を樹立したことが自慢。仕事以外では、8バルブのランチア・デルタ・インテグラーレ、初代フォード・フォーカスRS、初代ホンダ・インサイトなど、さまざまなクルマを所有してきた。これまで運転した中で最高のクルマは、ポルシェ911 R。扱いやすさと威圧感のなさに感服。
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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