フォルクスワーゲンID.4 詳細データテスト 穏やかな出力特性と操縦性 遅くないが刺激は足りない

公開 : 2021.11.06 20:25

意匠と技術 ★★★★★★★★☆☆

まず、このID.4 GTXで大きなトピックといえるのが、フォルクスワーゲンのEVでははじめて、四輪駆動の利点を活かしたモデルだということ。これは、フロントに非同期モーターを追加したおかげだ。

フォルクスワーゲングループには、MEBプラットフォーム登場以前に4WD電気自動車を実現したブランドもあるが、フォルクスワーゲン自身がそれをするのは、このGTXが最初のケースだ。ゴルフRがいかに成功したかを考えれば、これは非常に意義深いことだと思える。

モーターが2基積まれるGTXは、ID.4のラインナップにおいてもっとも重いグレードだ。シングルモーター仕様の倍近い出力がある反面、航続距離は多少目減りしている。
モーターが2基積まれるGTXは、ID.4のラインナップにおいてもっとも重いグレードだ。シングルモーター仕様の倍近い出力がある反面、航続距離は多少目減りしている。    LUC LACEY

フロントに積んだパフォーマンス重視のインダクションモーターは108psを発生。リアの永久励起同期モーターは、より高効率でパワーデリバリーが一定していて、日常使いに向いている。この2基を合わせて、最高出力は299ps、最大トルクは48.1kg-mに達する。

ID.4のラインナップにおいてすぐ下のグレードに対し、アウトプットはほぼ倍となる。ただし、モーターとギアボックスが2基ずつ備わるため、車両重量はもっとも重い2149kgとなっている。

とはいえ、一番重量がかさむのはやはりバッテリーだ。リチウムイオン電池の実用容量は77kWhで、航続距離はGTXが484km、装備を拡充したトップグレードのGTXマックスが468kmと公表されている。

つまりID.4は、一番高価な仕様が一番長い距離を走れるわけではない。その点で最上位にあるのは、518km走行可能なシングルモーターのID.4ライフ・プロパフォーマンスだ。

このGTXの重い車体を支えるのは、通常モデルより15mmローダウンしたスポーツサスペンションだ。ただし、前マクファーソンストラット/後5リンクという基本的な形式に変更はない。GTXの標準装備はパッシブダンパーだが、テストしたGTXマックスには調整可能なダンパーのDCCが備わる。

またGTXには、ゴルフのGT系モデルで導入されたブレーキ式擬似LSDのXDSがフロントに装備される。ESPシステムがホイールスピンを感知すると、それを抑えるようにブレーキが掛かり、LSDと同じ働きをするデバイスだ。

それらのメカニズムすべてを協調させるのが、新開発のヴィークルダイナミクスマネージャーだ。駆動力配分やダンパーの挙動、XDSの効き具合などを、このシステムが司る。

ルックス的には、おとなしいがどこかマンガチックなデザインで、その点ではID.3に通じるものがある。しかしGTXは、低くなった車高と大径ホイール、スポーティなディテールにより、通常のID.4より存在感が多少増している。

サイズ的には、BMW3シリーズなどのDセグメントセダンよりやや短いが、幅はワイドになっている、といったところだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    役職:ロードテスト副編集長
    2017年よりAUTOCARでロードテストを担当。試乗するクルマは、少数生産のスポーツカーから大手メーカーの最新グローバル戦略車まで多岐にわたる。車両にテレメトリー機器を取り付け、各種性能値の測定も行う。フェラーリ296 GTBを運転してAUTOCARロードテストのラップタイムで最速記録を樹立したことが自慢。仕事以外では、8バルブのランチア・デルタ・インテグラーレ、初代フォード・フォーカスRS、初代ホンダ・インサイトなど、さまざまなクルマを所有してきた。これまで運転した中で最高のクルマは、ポルシェ911 R。扱いやすさと威圧感のなさに感服。
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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