ブガッティの現在と未来 490km/hを突破した人間とのドライブ 車中の話題は電動化の可能性へ

公開 : 2022.04.30 20:25

モーターが内燃機関を凌駕する日

モルスハイムの街なかを走るときも、彼は隣に座ってくれた。ブガッティはこの地で生産されているはずだが、行き交うひとびとは振り返り、驚きに口をポカンと開けていた。

シロン・スーパースポーツの第1陣は、まもなく顧客のもとに届けられる。それはすなわち、シロンの生産も、内燃機関のみを積むブガッティの時代も終わりに近づいている、ということも意味する。なお、500台の生産台数はすべて売約済みだが、突如として破産する注文者もいるかもしれないので、キャンセル待ちリストも存在する。

ブガッティのみが持ち得る脅威のW16は、490km/h達成の要となるメカニズム。現時点ではモーター単体でこれに匹敵する最高速度に達するには大きなハードルがあるが、ウォレスはやがて実現できると断言する。
ブガッティのみが持ち得る脅威のW16は、490km/h達成の要となるメカニズム。現時点ではモーター単体でこれに匹敵する最高速度に達するには大きなハードルがあるが、ウォレスはやがて実現できると断言する。    MAX EDLESTON

リマックは、電動化時代のハイパフォーマンスカーで世界をリードしており、ポルシェもその方面には多少の心得がある。今回この地を訪れた建前上の理由は、シロン・スーパースポーツに試乗し、最高回転数で全開にすると1秒間に1000Lの空気を吸い込む、といったような驚くべき数字を堪能することだ。とはいえ、電動化についても、ウォレスと話し合いたいところだ。

このシロンで衝撃的だったことのひとつは、4つのターボのうちふたつが低回転で閉鎖されてレスポンスの改善を図っているにもかかわらず、W16エンジンがリッター200ps近くを発揮することだ。そのため、多少のラグは避けられない。そのパワーのほとばしりかたは、EVではなし得ないものだ。

「EVの加速は強烈で、ゼロ発進ではすべての時点で上回ることができます」とウォレスは述べるが、高い最高速度に達し、それをキープするのは苦手だ。

「どんなクルマであれ、490km/hを出すには、基本的に数秒間の間が空きます。その間、内燃エンジン車ではじつに多くのエネルギーを水とオイルへ送り込んでいますが、冷却システムが温度を安定させてくれるのです。EVでバッテリーからエネルギーを引き出し、インバーターがそれをモーターに必要なパワーへ変換する際には、インバーターが熱を持ちます。エネルギーを引き出すのにも時間は必要ですが、熱から保護するためには電力を削減します。ですから、490km/hに達するほどの長い間、最高出力を出し続けられないのです。とはいえ、いつかはできるようになると確信していますよ」。

電動ブガッティは最強を更新するのか

では、プラグインハイブリッド化されたW16エンジンを積む未来のブガッティは、シロンと同等か、さもなくばそれ以上のトップスピードを出せるのだろうか。

「これまで歴代モデルは、どれもそうでした。今回のプログラムはまだ初期段階で、その答えを知るには早すぎると思います。しかし、新型車が登場するとき、それも新たなブガッティではいつでも、ひとつ前の段階より大きな飛躍をしてみせてきました。それが再現されないと考える理由はありません」。

古のシャトーと最新の製造設備が共存するファクトリーは、遠からず純エンジン車の生産を終了する。電動化された次作はまだ準備段階だが、これまでのような飛躍を見せてくれそうだ。
古のシャトーと最新の製造設備が共存するファクトリーは、遠からず純エンジン車の生産を終了する。電動化された次作はまだ準備段階だが、これまでのような飛躍を見せてくれそうだ。    MAX EDLESTON

数ある選択肢からID.3を選んで購入したウォレスは、おそらくその次世代ブガッティをすでにドライブしているのだろう。

「まったく心配はしていません。わたしは電動車がどこをとっても大好きです。電動化の波ははじまっていて、それに抗う術はありません。ですから、それをよろこんで受け入れ、理解すれば、ファンタスティックな出来事があれこれ起きるかもしれませんよ」。

しかしそうしている間に、今乗っているマシンへの集中力が少し削がれていた。われわれはファクトリーへ戻るオートルートの路上にいた。渋滞は軽い。すると、ウォレスがこんなことを口にした。

「もしも空いているところを見つけたら、ギアを2段落として、ひたすら走らせましょうよ」。

もちろん、よろこんで。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Koichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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