市販できそうな訴求力 BMW iX5 ハイドロジェンへ試乗 燃料電池スタックはトヨタ製

公開 : 2023.03.10 08:25

水素を分解して電気エネルギーを得る、水素燃料電池車。BMW X5をベースにした試験車両へ、英国編集部が試乗しました。

最大100台が手作業で作られるFCEV

自動車ジャーナリストの仕事をしていると、未完成の試作車へ乗る機会も少なくない。技術開発の実験的な車両となると、市販できそうな訴求力を備える例は極めて珍しい。

今回試乗したBMW iX5 ハイドロジェンは、そのレアなケースに当てはまった。もっとも、課題は残っている。700barの圧力が掛かり、マイナス40度へ冷やされたカーボンファイバー製タンク内へ、6kgの水素を補充しなければ走ることができない。

BMW iX5 ハイドロジェン(欧州仕様)
BMW iX5 ハイドロジェン(欧州仕様)

満タンの状態で、iX5 ハイドロジェンは最長503kmを走れるが、欧州には水素ステーションが殆どない。日常的に乗れる人は限られる。

同社は、水素エネルギーへの関心が工業界全体で高まれば、クルマの燃料としても普及し得ると考えている。水素ステーションが整備されれば、課題は克服できなくない。

あくまでも想定ながら、BMWは現実味を帯びた時に備えて、技術的な準備を進めている。水素燃料電池車(FCEV)のiX5 ハイドロジェンが生まれた理由だ。

ドイツ・ミュンヘンのワークショップで、手作業によって組み立てられ、最大でも100台に数は限定される。過去には、BMW 1シリーズをベースにしたバッテリーEV(BEV)、アクティブEが作られたのと同じ場所だという。

そこから画期的なシティカーのi3だけでなく、i4やiX、iX1、i7というBEVが導かれた。iX5 ハイドロジェンも、将来の礎になる可能性はある。

駆動用モーターは401psと72.3kg-m

今回試乗したのは、ベルギー・アントワープ周辺の一般道。実際に運転してみて、BMWの水素燃料電池技術は、まったく不備がないように感じられた。既存のBEVと変わらず走る。

既に市販されているトヨタ・ミライヒョンデネッソといったFCEVと同様に、強固なタンクから燃料電池スタックへ水素が送られ、電気が生成される仕組みは同じ。ちなみに、このスタックはトヨタ製だという。

BMW iX5 ハイドロジェン(欧州仕様)
BMW iX5 ハイドロジェン(欧州仕様)

得られた電子は、電気になり駆動用モーターとバッテリーへ送られる。一方、分解された水素イオンは大気中の酸素と結合し、H2Oの水を生み出す。御存知の通り、この過程でCO2は生まれない。

iX5 ハイドロジェンの場合、駆動用モーターはリアアクスル側に1基。BEVのiX xドライブ50が積むユニットと、基本的には同じだそうだ。滑らかに回転し、レスポンスは良好。X5としては初の、純粋な後輪駆動でもある。

燃料電池単体では約170ps相当の電気を生成し、リチウムイオン・バッテリーが鋭い加速に必要な電気を補う。この駆動用バッテリーがないと、水素を分解し電気を生み出す過程が介在し、加速に遅れが生じる。充分な出力も得られない。

結果として、駆動用モーターが発揮する最高出力は401ps。最大トルクは72.3kg-mになる。BMWが製作したFCEVとしては過去最強とのこと。ただし車重は2460kgもあり、加速力は驚くほどではない。たくましく速度を高めていく。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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