ゼロヨン加速はフェラーリ348t超え GMCサイクロンとタイフーン 世界最速トラック 前編

公開 : 2023.07.23 07:05

開発・製造を外注し大幅なコスト削減

モーターショーへ発表された時点では、後のサイクロンにはビュイックの提案通り、3.8L V6ターボエンジンが積まれていた。だが、後にタイフーンとなるカラハリには、4.3L V6エンジン、ヴォルテック・ユニットが搭載されていた。

7か月後、ニューヨーク・モーターショーにもこの2台は出展。「量産予定はまだ決まっていません」という説明へ変わり、市販へ1歩近づいたことを匂わせた。

GMCサイクロン(1991年/北米仕様)
GMCサイクロン(1991年/北米仕様)

その後、GMCはチューニングを施したS-15を最高速記録のメッカ、ユタ州ボンネビルへ持ち込み、カテゴリーEという量産車部門の記録へ挑戦。時速194.77マイル(313.4km/h)を叩き出し、市場の期待を大きく膨らませた。

GMCは、フェラーリポルシェに動力性能で並ぶモデルを提供できる可能性を手にしていた。しかし、大きな問題となったのが開発コスト。当時で2億ドルが見積もられ、ショールームへ並ぶまでに7年間が必要だと算定された。

だが、当初からこのプロジェクトを牽引していたマーケティング部門のキム・ニールセン氏には、秘策があった。既存のピックアップトラック、S-15をベースにしつつ、開発から製造までを外注することで、コストの大幅な削減ができると考えていた。

このコンセプト・トラックの量産に向けて協力を名乗り出たのは、アメリカン・スペシャリティ・カーズ(ASC)と、プロダクション・オートモーティブ・サービシーズ(PAS)いう2社。それぞれ、独自のパワートレインが提案された。

284psの4.3L V6ターボに四輪駆動

両社とも、4.3L V6ターボエンジンの最高出力は284ps、最大トルクは48.3kg-mへ向上させていた。しかし、大きく異なっていたのが駆動方式。

ASCが、S-15純正のトランスミッションに後輪駆動というレイアウトを継投したのに対し、PASはビスカス式センターデフを備えた四輪駆動システムを採用。シボレーのミニバン、アストロの部品が流用されていた。

コンセプト・トラックのリアアクスルへ掛かる車重割合は約37%と小さく、284psを後輪駆動では受け止めきれないことは明らかだった。派手なバーンアウトは得意だったかもしれないが。

最終的に開発を請け負うことになったのは、ミシガン州トロイに拠点を置くPAS。1400万ドルという予算が託され、GMCのニールセンと協力しながら望む性能を発揮させるべく、18か月という短期間で作業は進められた。

4.3LのV6ヴォルテック・ユニットから、追加の116psと15.8kg-mを引き出すべく、採用されたのは三菱のD06-17Cターボチャージャー。ブースト圧を最大14psiまで高め、ギャレット社製の水対空インタークーラーと組み合わされた。

ピストンは低圧縮比の専用品となり、スロットルボディはコルベット用。吸排気のマニフォールドは専用設計で、マルチポイント燃料インジェクションがガソリンを供給した。

トランスミッションと四輪駆動システムは、当初の提案通りアストロから流用。駆動力の65%が、リミテッドスリップ・デフが組まれたリアへ送られ、残りはフロントへ導かれた。ターボが生み出すパワーを、確実に路面へ展開できた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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