アルピーヌを動かす最重要人物 フィリップ・クリーフ氏:エンジニア賞 AUTOCARアワード2025

公開 : 2025.07.28 11:45

2024年後半から2025年前半で、各カテゴリーのベストを称えるAUTOCARアワード。最高経営責任者からデザイナー、F1チームまで、各部門賞に輝いた人物や組織とは? UK編集部が4人+1チームを選出。

ブランド復活を背負った技術者

フィリップ・クリーフ氏との30分の面会には、11週間前から予約が必要だ。驚く必要はない。昨年9月、マルセイユ出身のクリーフ氏は、ルノー・グループの新しい最高技術責任者(CTO)に就任した人物である。

2023年にフェラーリを離れ、アルピーヌのCEOに就いている60歳の彼にとっても、これは相当なキャリアアップだっただろう。

アルピーヌのCEO、フィリップ・クリーフ氏
アルピーヌのCEO、フィリップ・クリーフ氏

彼は両方の仕事を並行してこなしており、毎日分刻みのスケジュールで動いている。まさにハードコアだ。

ルノー、ダチア、そして「車両サービスを提供する」モビライズを担当する研究開発の責任者であるクリーフ氏は、アルピーヌブランドの復活にも大きな責任を負っている。そのため多忙を極めているが、もし彼を捕まえることができれば、興味深く、骨のある人物だと気づくだろう。

インタビュー当日、ルノーのテクノセンターの地下にある巨大なターンテーブルが置かれた展示スペースで、CTOの到着を待つ。広報スタッフたちの緊張した様子から、彼がただならぬ人物であることがよくわかった。

アストン マーティンの元CEO、トビアス・ムアース氏のような威圧感はない。同氏に面会すると、人々はしばしば強い威圧感を覚えるが、ここではそのような雰囲気はまったくなかった。

皆は眉をひそめ、会話も途切れ途切れに、椅子を何度も並べ替えた。そして、彼は予定より5分早くわたし達の前に現れた。黒いタートルネックを着て、自動車の設計開発者というよりも、カーデザイナーらしい出で立ちだった。

エンジニアになりたくて自動車業界へ

AUTOCAR英国編集部は今年、フィリップ・クリーフ氏を『マンディ・エンジニアリング・アワード(Mundy Award for Engineering)』に選んだ。彼は一体どのような人物なのかというと、まず、生まれつきのエンジニアだ。経営幹部は多くの場合、クルマへの情熱を親から受け継いでいるものだが、彼の両親は自動車業界とは無縁で、引越し業を営んでいた。

家業は好調だった。若い頃のクリーフ氏はDSシトロエンの後部座席で過ごし、父親のプジョー504クーペ(ピニンファリーナ設計のモデル)に特別な思い入れがある。魅力的なマシンが常に周囲にあった。しかし、それが原動力というわけではない。

クリーフ氏へのインタビューはルノーのテクノセンターで行われた。
クリーフ氏へのインタビューはルノーのテクノセンターで行われた。

彼が目指していたのはエンジニアリングの仕事だった。「そこで、自分の情熱とクルマを組み合わせたんです」と彼は言う。エンジニアリングが願望であり、クルマはそれを実現する手段だった。やがて、そのバランスは変化し、今では他の分野でのエンジニアリングは考えられないという。

「わたしが学んだこと、そして今では不可欠なのは、クルマに魂を吹き込むことです。試乗すると、それを感じることができます」とのこと。MRIや無人ロケットを設計しても、同じような感動は得られないのかもしれない。

これはクリーフ氏らしい発言だ。彼は、アクセントのある英語で、エンジニアリングの概念や構造を説明する際は正確に発音しながら、静かに、しかし威厳を持って話す。同時に、他人が言ったら少し気取って聞こえそうな感情的な表現もしばしば口にする。

「魂」が彼の作品の核となっていることは、彼の過去の作品を知っている人なら誰でも理解できるだろう。クリーフ氏が唯一無二の存在だということが、言葉の端々からも伝わってくる。

一方で、彼は定量的なアプローチにこだわり、「結局のところ、たとえ主観的なものであっても、クルマを特別なものにする要素は測定可能です」と主張する。シャシー開発における雑用をすべてこなし、コストを削減し、才能ある人材を発掘できるシミュレーターを高く評価している。

しかし、彼は「あらゆる面で完全に調和した」スポーツカーを作るためには、人間的なタッチが不可欠であると固く信じている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    役職:ロードテスト副編集長
    2017年よりAUTOCARでロードテストを担当。試乗するクルマは、少数生産のスポーツカーから大手メーカーの最新グローバル戦略車まで多岐にわたる。車両にテレメトリー機器を取り付け、各種性能値の測定も行う。フェラーリ296 GTBを運転してAUTOCARロードテストのラップタイムで最速記録を樹立したことが自慢。仕事以外では、8バルブのランチア・デルタ・インテグラーレ、初代フォード・フォーカスRS、初代ホンダ・インサイトなど、さまざまなクルマを所有してきた。これまで運転した中で最高のクルマは、ポルシェ911 R。扱いやすさと威圧感のなさに感服。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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